3次元別館。

主に観劇の感想です。2.5舞台が多めでその他のミュージカルやストレートプレイも。

【観劇記録】9/23 舞台『GOZEN-狂乱の剣-』

 

  • 連動している映画の方は未見、舞台のみの感想です
  • 大きめのものは避けますがネタバレありのためご注意

 

観劇の二日前、用事を済ませて池袋駅構内を歩いていたら、突如この作品の巨大ポスターが目に飛び込んで来まして。確か刀ステの鶯丸の人が出てるんだっけ?と近寄ってキャストを見てみたら、主演が薄ミュの初代土方さんで、ルパパトのノエル、刀ステの長義、生執事のマダム・レッド役の各方々、更に少年社中の役者さんたちまで出演されてると。多分慈伝の時にもらったチラシの中にあるよね?と、さっと見てそれきりになってたチラシを帰宅して確認したら脚本演出は毛利さんで、ハムレットの和風アレンジっぽい?のか……で、急遽東京公演の前楽へ。駅のポスターを見て観劇を決めたのは多分初めてだな。ありがとう池袋駅

 

作品の印象を一言で表すなら「エンタメ全開時代劇@オタクの好きなもの全部乗せ(中二風味)」。あ、中二っていうのは役者さんもインタビューの中で言ってるからね! ストーリーがリンクしている映画もあるようなのですが、そちらは未見でも大丈夫でした。ただ、下敷きになっているハムレットのあらすじや登場人物、有名な台詞はざっくり押さえた方がより楽しめるかもです*1。王子が父親の仇を討つために狂ったフリをしてるとか、親友とやたら仲良し*2とか、父親の霊が出てきて「自分は弟に殺されて王位を奪われた」って告げたりとか、王子の彼女が酷い振られ方をした挙句に狂死するとか、元ネタからしてそんな感じなのに、そこに更に中二全開の登場人物が複数名加わって御前試合(と言う名の殺し合い)開始、とか、○杯戦争でも始まりそうな勢い。

前半は下ネタ含むギャグが多かったりもしますが、メインのストーリーはシリアス。テンポ良く飽きさせない展開の中、お亡くなりになる人も多いです。少年社中の過去作品や薄ミュに近いかな。ビジュアルは美しいし、映像を駆使した戦闘シーンやバリエーション豊かな殺陣など、全体に見応え十分でした。てか、甲斐正に仕える侍・蔵人の覆面オンのビジュアルとか、五芒星を宙に描いて臨兵闘者…って唱える陰陽師とか、一幕ラストで正体を現す某お方とか、七月に観た紅葉鬼と微妙に重なるところがあって、変な笑いがこみ上げてきそうになった……。

主人公の八弥斗(はやと)は前藩主の息子にしては幼いし情けない。ラブラブバカップルな関係にある奈奈に結婚を迫られてもなんだかんだ理由をつけてうやむやにしちゃうし、重大な決断を迫られると弱腰になったりもする。けど、弱い部分がとても人間らしいし、迷いに迷ってそれでも運命に立ち向かおうとする姿には叔父や父とは違う強さを感じました。終盤の奈奈との別れの場面は切なかった。

謎の武芸者、流狂四朗は、あーそう来ましたか!という役どころ。中盤まで出番は少なく、正体も明かされないので先に映画見ておくべきだった?とハラハラしていたら……なるほどな。殺陣の速さと重さに目を見張るものがあった。

メインの二人の他には、八弥斗の親友で物理的に弱いけど優しい清順(きよのり)、八弥斗ラブ全開で可愛いが……の奈奈、妹思いの兄・蓮十郎、銀髪赤目に加えて顔の大部分を覆うマスク着用で中二病全開スタイルの侍・蔵人(くらんど)、長髪黒づくめ+敬語で胡散臭さしかない陰陽師・月暗(蔵人との間に因縁有り)、兄を殺して藩主の座と妻を奪ったイケオジ・甲斐正、成人した息子がいても尚妖艶で美しく、愛に生きる奥方・朝霧等が愛憎入り乱れる様を繰り広げておりまして……複数刺さった方には是非ともおススメしたい次第です。

年明けに観た少年社中の舞台は個人的に合わないなーと思う部分があったのですが、こちらはエンタテインメントに振り切った作品として素直に楽しむことができました。

 

しかし。前の週に、同じく公演日直前に観劇を決めて劇場に赴いたのが『リトル・ ウィメン~若草物語~』でして。愛おしくてたまらない四姉妹と、お母様をはじめ周りの人たちの織り成す暖かな世界に涙しまくった翌週にこれって、我ながら振り幅大きいかも知れない……。

*1:自分も主要登場人物の名前と大筋、『To be, or not to be: that is the question.』や、『尼寺へ行け』くらいしか知らないし

*2:かなり昔に音楽劇で観た時、この二人やけに仲良くね? と思った記憶がある

【観劇記録】8/1 舞台『刀剣乱舞』慈伝 日日の葉よ散るらむ(刀ステ)

 

  • いつものごとくネタバレ全開の感想です
  • 台詞などはすべてうろ覚えなので記憶違いがあるかもです…

 

注意:ライビュ・配信などを含め観劇予定の方は、一切ネタバレ無しで臨むことをお勧めします(のでこのエントリーも回避推奨)

あと、過去作を一通り見ておくとより楽しめるかも。

 

これまでの刀ステは初日ライビュを含め、公演期間の割と早いうちに観劇できていたんですが、慈伝は大楽近くになりました。やっと観られたよ!!

 

終わってから頭に浮かんだのは「信頼と実績の刀ステ」でした。だってさ、あの日常アニメの花丸ですら、1クールの間に何度か過去の時代に出陣して敵と戦うシーンがあったのに、慈伝は冒頭の聚楽第出陣を除き(それすら映像だったりする)、ほぼすべてが本丸内で展開されて、舞台上に登場するのも刀剣男士オンリー。殺陣はあるものの模擬戦という形で、「舞台の上で時間遡行軍と戦うシーンがない」という、刀剣乱舞のメディアミックスとしてはかなり異色の物語でした*1。もちろん今回も楽しめたけれど、こういうイレギュラーな作品を外伝などではなく悲伝の続きとして、そしておそらく次回作へと繋がっていく本編として上演できるのは、これまでの刀ステが積み上げてきた信頼と実績の賜物なんだろうな。 

 

以下、箇条書きでつらつらと。

※まとまってません&時系列もバラバラ

 

  • 最初、聚楽第出陣のシーンが映像で展開されて「ええっ?!」と戸惑った…しかも出演者の方々が舞台上でなくスクリーンの中で時間遡行軍とガチで戦ってるので余計に。アンサンブルキャストの発表がなかったことなどから時間遡行軍との戦いがないことは想定内だったものの、洛外からボス戦まで、ダイジェストの映像とは随分思い切ったなあ……。それでもボス戦の音楽が原作と同じだったり、画面もアクションゲームっぽさが感じられてちょっと面白くはあった。
  • 映像が終わると共に始まるオープニングは長義以外全員出演+内番衣装でまたびっくり。曲もポップでほぼ花丸。わちゃわちゃしててこれはこれでかわいい。
  • いつもの一振ずつ名乗っていく場面はナシ。このノリでアレがあったら逆におかしいことになってたよな…。とは言え、新しい男士たちの顕現の名乗りを見てみたかった気持ちも少しだけあったりはする。
  • 初登場の刀がいっぱい。次郎太刀と五虎退の人以外は初めてお名前を聞く方でしたが、もちろん心配など不要でした。特に原作ゲームでお迎えした時からお気に入りの長義! 写真で見た時は悪くはないかなー、くらいの印象だったけど、気位高そうでいて折り目正しいし、同じ刀派の大般若とは割とすぐに打ち解けるし、翻って南泉やまんばちゃんにはあの挑発的な態度。模擬戦の時だったかな、高さのある跳躍には目を見張らざるを得なかった。そんななのに布バサされまくるし、鶴丸に翻弄された挙句に正体を知らないままこっちを向けと迫ってくるまんばちゃんに「ええー……」とうろたえまくったりもして、まさに理想的でした。終演後に個人ブロマイド購入を即決した。
  • 南泉も時に猫っぽくなるところはやり過ぎにならない加減で微笑ましく、でも昔馴染みの長義に対して言うべきことははっきり言っていて、立ち位置に末満作品ぽさを感じた*2。あの本丸にいてくれて良かったなあ……。長義ともども、終演後に個人ブロマイド購入が決定*3
  • 声がゲームそっくりで終始わたわたしてる五虎ちゃんと、礼儀正しい語り手の前田、かわいい……博多と並んだ時の破壊力というか粟田口短刀たちの尊さよ。何気に粟田口の子が三振以上揃うのは初めてだよね。模擬戦での連携プレーは滾った。
  • 落ち着きがあって美しい太郎太刀と、賑やかで綺麗な次郎太刀の兄弟。酒は勧めまくるが下戸とわかれば無理強いはしない、これ重要。風流な唄と舞まで披露して、流石は奉納刀といったところ。途中で着替えた時に大太刀(刀本体)の長さに改めて驚く。これで殺陣やっちゃうんだろうか、と思ってたら兄弟揃ってあの凶悪レベルの長物をガチで振り回しててまさに嵐でした……。
  • 内番姿がヤンキー&ラーメン屋のあんちゃんな三池の刀たちは、戦装束で並んだ時のビジュアルがめっちゃカッコいい。模擬戦時はソハヤの胴の部分の防具や、光世の脚の間の紐が見るからに扱いにくそうで、ちょっとはらはらしたけどな! ソハヤの「コピーでいいじゃねえか」の響きがジョ伝の時とは違って切実さが滲んでるように聞こえたのは、陽気な面しか見せようとしない彼なりに、まんばちゃんのことを案じているからなんだろう。そして終盤の光世に吹いた……そこで真剣必殺の台詞かい!
  • 今回初登場の陸奥守。「山姥切より少し後に顕現した」と言っていた通り、かなり初期の頃から本丸にいるような雰囲気があった。宙返りを華麗に決めてたり、戦闘時に銃を使ってきたりとかなりアクティブ。まんばちゃんに「吉行」と呼ばれてるのが新鮮だった。
  • 会場替わり男士は歌仙。予想以上に終始出番があったので、期間限定の他会場の配信も見たくなるパターン。模擬戦に参加しない理由が「一句したためたいから」みたいなのだったのが雅。大包平と長義について書いた某ツイートを読んでから改めて考えたんですが、歌仙は顕現してからそれなりに経ってるし、義伝の時に前の主に対する感情等々との折り合いがある程度ついてるだろうから、戦うことによって存在意義を示す必要のある仲間たちに場所を譲ったのかもね。
  • 前作までは眉間にしわ寄せて悩んでる場面の多かった長谷部は、盛大にボケつつ突っ込みまくっておりました。山伏と一緒になってまんばちゃんと長義を出会わせまいと奮闘しつつ滑りまくるくだりは盛大に笑わせていただいた……明らかに不自然だからそれ!おはぎ引っ張り過ぎだから*4! 近侍のことを精一杯気遣いつつも、模擬戦では気に食わない相手のはずの長義のチームに自ら加わるあたり、本丸(というか主)第一なところはぶれないなあ。
  • 山伏も長谷部と一緒にコント状態になっちゃってたのは、近くで兄弟の苦しむ姿を見てきたからなのかな。悟っているように見えて、割とテンパりやすいタイプなのかも知れないぶっしーさん。
  • 同田貫のまっすぐさが染みた……ジョ伝の頃を知ってるからこそ余計に。一番わかりやすくストレートにまんばちゃんの味方だったもんね。たぬきがあれだけ本音で長義にぶつかってくれたからこそ、他の仲間たちも「自分の言いたいことはあいつが言ってくれている」と、フォローに回れたのかも。
  • 大包平がずーっと叫びまくってて、酔いが回っているにしても少々うるさ過ぎでは……と思ってしまったんだけど、先述の、大包平と長義についてのツイートに「大包平の『よくわからないが悔しい』『戦いたい(=戦って勝つことによって存在意義を示したい)』というのは、長義の心の叫びでもあるんじゃないか」と言った趣旨のことが書かれていたのを読んで、ちょっと納得。たぬきとは違った形でストレートなんだな。
  • 鶴丸は畳の下から登場したり、布を被って暖を取ってた時に後ろ姿でまんばちゃんと間違えられて、そのまままんばちゃんのフリしてみたりとか、やりたい放題でした……てか後者のは気づけよ長義! でも、模擬戦に参加できないことを悔しがる大包平を見て、じゃあ3チームにしよう、と提案するあたり、本丸全体のことをちゃんと見てもいる訳で、その辺は年の功というか。一見つかみどころのない鶯丸や、終始飄々とした大般若にも同じことが言えるかと。
  • 「偽物くん」なんてさ、普段のまんばちゃんならああまで動じなかったかもだけど、悲伝の後だからね…辛い。はっきりとは語られてなかったけど、多分本丸内では、特にまんばちゃんの前では三日月宗近の名前は暗黙のタブーになってたのかもな、と。近侍のことを気遣ってのことであっても、それが余計に心苦しかったのかな。それと、私が観劇した回では、模擬戦の最中に頭の布が取れてしまう、というハプニングがあったんですが、観劇中は全然気付かなくて、そういう演出だと思ってた…。普段布に覆われてる素顔を戦いの時に垣間見てしまったことが、長義の心境に何らかの変化を及ぼした、みたいな。
  • 五虎退の探し物は義伝のあれだったか。今手元に戯曲が見当たらないので確認できないんだけど、小夜ちゃんがもらってたよね確か。どういう経緯で五虎ちゃんに渡ったのかとても気になる。けど五虎ちゃん、これくらいの大きさの、だけじゃなく、小さい物がたくさん詰まった巾着、とか、中身をはっきり言わないまでももう少しヒント出しても良かったんでは……。あれじゃ流石にわからんだろう、というかそれでも真剣に探し物に付き合う面々、優しい……。
  • 長義は終盤で少しだけ歩み寄る姿勢を見せるけど、依然「偽物」のことを認めてはいない。そして、本丸の男士たちはそのままの彼を受け入れていく、というのが良かった。馴れ合わない大倶利伽羅や、心に闇を抱えたまま極の姿になった小夜ちゃん然り、多少の出来事で簡単に変われない部分もある。そしてその事は仲間として歓迎しない理由にはならない、というのは懐が広いというか、刀として長く人間の営みを見てきたことならではなのかも知れない。
  • しかしこう書いていくと、それぞれにちゃんと役割と見せ場のある脚本なんだなあ、と唸らされてしまう。中盤まではドタバタコメディ→後半に緊迫感を持たせてラストはしんみりさせつつ、次回への期待も持たせる、という流れも自然でした。ちゃんと殺陣もあったし! 本丸でドタバタした日常を繰り広げる刀剣男士たちの様子も楽しいけれど、模擬戦が始まって、やっぱり刀剣男士が一番輝いてるのは戦ってる時だよね、と再認識した。
  • 模擬戦と言えば、今回は久々の一階席、しかも通路近くの席での観劇だったので、下手側通路を駆け上がってハケるたぬきや、暗い中でゆっくりと通路を降りていく大般若を間近で見る事ができて嬉しかった。
  • ラスト、まんばちゃんと陸奥守と歌仙が語らう場面は、初期刀メンバーだ! と原作ゲームファン目線で胸熱。ところであの感じだと、次回のメインはむっちゃんだったりするんだろうか。
  • エンディングが、真っ白な傘に映像で名前を投影する、というようになってたのが面白かった! 曲は今回も期待を裏切らないかっこよさ(ジョ伝っぽいやつ)だったので、また音源欲しくなるじゃないか。

 

千秋楽はこれからライビュで観劇予定なので、見て考え直したことなどあれば、後日追記&修正しようと思います。

 

 (ライビュ後追記)

ライビュ前に書いた部分をちょいちょい直しつつ、新たに感じたことなど。

今回は模擬戦の最中に布が取れてしまうような事もなく、本来の形であのシーンを観ることができまして。布を被ったままだと、よりまんばちゃんのずば抜けた強さや、勝利した後に勝ち誇る気が全くないところが際立っていました。こんなの見せられたら悔しがるしかないよなあ、長義……。

そして、次回は文久土佐藩ってとこまでは何となく予想してたけど、実際に告知映像を目の当りにすると心拍数が。南海先生は春に観たSPECTERのシャドの人だね。しかも兼さんと堀川君来るし、鶴丸は続投かと思ったらまさかの染鶴さんカムバックだし! そして、(おそらく)初めてまんばちゃんのいない刀ステ。これも時期的にあり得るとは思ってたものの、やっぱり寂しいね……。今までお疲れ様でした&また刀ステ本丸に戻ってきてくれたらとても嬉しい。もちろん健鶴さんも長谷部も、次回作には出演しない他の刀剣男士たちも!

*1:らぶフェスは観たことがないのでわからないんだけども

*2:虚伝の長谷部や、他作品だと繭月のジュリオとか

*3:と言いつつ会計を待つ間にあの刀もその刀も、と増えていき最終的には11種類ゲットした

*4:もはや刀ステ長谷部のお約束とも言う

【観劇記録】7/6 舞台「紅葉鬼」

 

  • 2.5次元含む舞台好き、かつ原作ファンの感想です
  • ストーリーなど多少のネタバレあり

 

この『紅葉鬼』は通常の2.5舞台とは少し違っており、『抱かれたい男1位に脅されています。』(以下、だかいち)というBLマンガの「登場人物が出演する舞台作品」が原作となっています*1。コミックスで出てきた時、面白そうだからこれだけ別にマンガ化しないかなー、などと思っていたら、まさかの舞台化。舞台上でお姿を拝見したことのある役者さんが何名か出演しているのもあって興味を惹かれつつも、迷ってるうちに気づいたらチケット発売日を過ぎてしまい……。今からじゃ取れないよなーと諦めてたら当日引換券があるということだったので、ゲットして観劇して参りました。

ちなみにこちらが原作のコミックス。自分は未視聴ですが、アニメ化もされてます。

 

抱かれたい男1位に脅されています。 (ビーボーイコミックスデラックス) (ビーボーイコミックスDX)

メイン2人だけでなく脇キャラも立っており、芸能界モノとしても面白いんだけど、かなりしっかりBがLしてるので苦手な方はご注意。

※紅葉鬼は作中作なので、BLではないです

 

だかいちの作中で描かれる紅葉鬼の内容は、稽古場でのワンシーンとビジュアル撮影風景、カテコの様子くらい*2で、コミックスを読んだだけではストーリーの全容はわからず*3、登場人物もキービジュアルの経若(つねわか)と繁貞以外は不明という状態。なので、2.5次元舞台というよりオリジナルの作品を観ている感覚でした。

クラブeXは今回初めて訪れた劇場(?)で、奥に小さめのステージがあり、そこから少し低くなった所に円形の大きめのステージが広がっている、という構造でした。観劇した席は注釈付で上手側のかなり端、奥のステージ寄りのブロック。場面によっては後ろ姿しか見えないなんてこともあったんですが、ほぼ360度から見られることが前提になっており、逆に正面からではわからない部分を見ることができたりもしたので、それ程気にならなかった。むしろ、前から3列目以内で舞台との距離がとても近く、役者さんの細かい表情がオペラ無しでも余裕で見えたので、注釈付でこの場所ならかなり良いんでは?というくらいでした。ただ、席によっては前の人の頭でステージのほとんどが遮られてしまった、ということもあったらしいです。注釈付ではない席の話のようで、流石にそれは何とかならなかったんだろうか……。

ストーリーはぶっちゃけ割とよくある話で、どこかで見たような設定のキャラクターが多かったのは否めないです。鬼と人間の対立がある中で、人間として育てられているけど実は鬼と人のダブルとか、我が子と引き裂かれ、愛する人に裏切られて怨霊化した鬼女とか、帝を意のままに操る陰陽師(黒幕)とか、血の気の多いオネエ言葉の鬼とか、長年オタクやってればどこかしらで目にしてるよね*4……。話自体はすっきりとまとまっているし、見せ方が工夫されていて飽きることはなかったけど「誰がどの時点でその事を知ったのか」がわかりづらかったり、含みを持たせていると思われた事が単に言葉通りの意味でしかなかったりと、首を傾げてしまう点はちょいちょいあった。

それらを補って余りあったのが、迫力のある殺陣と巧みな演出、役者さんたちの演技でした。

殺陣は薄ミュや刀ステ並に多い上に速さと勢いもあり、広いとは言えない舞台をいっぱいまで使いつつ複数名入り乱れての乱戦もあったりして、見応え十分。オーソドックスな刀の他に、槍、三日月のような形の湾刀、更に素手や呪術で戦う場面があるなど、バリエーションも様々だった。演出も工夫が凝らされており、客席通路にあたる場所を普通の通路並に出入りに使ったり、暗転を効果的に使用して舞台上にいきなり人が現れたように見せたりと、大掛かりな装置やセットがなくてもこれだけ色々なことができるんだなあと感心しきりでした。

役者さんはアンサンブルも含めどの方も身体能力抜群。特に準主役*5の繁貞の殺陣は速さと大きさのあるもので、人間でいる時も見事でしたが、鬼として覚醒してからのそれは更に力を増していて驚くしかなかった。後で確認したら、ハイステで白鳥沢チームのメンバーを演じてた人なのね。道理で。

今回の舞台で主役になっている経若は、作中作では準主役なので、だかいちの主人公が「経若を演じる俳優の、西條高人」だということに合わせてるのかな*6。人間の身でありながら鬼として育てられている関係上、辛いことも多く、複雑な感情が渦巻いているのを抑え目の演技で表されておりました。二幕の衣装もそこはかとなく色っぽくて◎。そして、すごく思ったのが「舞台にいるのは経若を演じている高人」だということ。俳優としての場面は全く出てこないのに、「高人さん」が確かに存在していた。ただ『紅葉鬼』を舞台化するだけでなく、だかいちという作品の一部であるということがちゃんと踏まえられていて、実際に演じている俳優さん(陣内さん)の力量を感じました。

てか繁貞があんなに真っ直ぐでいい奴だなんて思ってなかったよ!作中で繁貞を演じている俳優、綾木はいわゆる当て馬ポジションで、役者としてのセンスはあるものの、裏では結構ゲスい奴なのでね……。とは言え、「初舞台で主演に抜擢された俳優」であることを裏付けるだけの華々しい存在感はちゃんとあった。表に出る時は裏の顔は当然封印してくるだろうし。

あと、「どこかで見たような設定のキャラクター」なんて書いちゃったけどさ、帝を陰で操る陰陽師こと摩爬(するは)、すごく良かった!登場しただけでどことなく不穏な気配を漂わせながら、帝の忠臣かつ陰で実権を握る者として台詞回しや立ち居振る舞いに整然とした美しさがあり、出てくる度にわくわくしてました。派手な出で立ちで血の気の多いオネエ言葉の鬼、すなわち伊賀も嫌いな訳ないし!湾刀の二刀流が力強く豪快で、良いギャップがあった。

それから、怪力少女で経若に憧れる子鬼のおまんが可愛くてね……。カテコの挨拶がこの子だったんですが、まだ9歳という事にも驚きなのに、見事なボケまでかましてくれて恐ろしい子!経若の育ての親で、繁貞の実の母である鬼女の呉葉も、どこかあどけなさを残しつつ美しかったです。

先程もちらっと書いたように「ただ作中作を舞台化しただけではない」ということは、劇場の外でも随所に現れていました。パンフレットの表紙がコミックス作者(桜日梯子さん)の描き下ろしイラストなのって、昨今ではかなり珍しいんじゃないかな*7?表紙をめくった裏側のイラストも思い切り笑ったし。だかいちが割とこういうテイストだからね!普通のパンフレットとしての情報はきちんと押さえつつ、マンガのファンに嬉しいコーナーが表紙以外にもありました。ランダムブロマイドもメイン二人だけとは言え、役としてのそれと、役者、すなわち高人と綾木としてのオフショットの両方が用意されてるし、アクスタなどのグッズが表紙とは別の描き下ろしイラストだったり、劇場ロビーの窓際に、登場人物のイラストがピンで描かれた色紙が全員分飾られていたり。ランブロは3枚購入したら、綾木稽古場ショット、摩爬、経若(足チラ)&繁貞のが来てくれた。わーい。

極めつけはロビーのスタンド花。原作者さんからの他に、高人のお相手*8である東谷准太からのものがしれっと……チュン太、抜かりないな!と、現物を目の当たりにして笑いを堪えられなかった(訳:ありがとうございます)。

何だかんだ言いつつ、こういった形での舞台化もなかなか楽しいものですね。

*1:ガラスの仮面紅天女的な

*2:アニメでは他にもっとあるのかも

*3:原作者さんのTwitterであらすじが公開されてはいる

*4:近いところだと、春に紅葉ならぬ桜の鬼の話を観たばっかりです

*5:原作中の『紅葉鬼』では主人公

*6:書いてて非常にややこしい…

*7:私が知らないだけだったらすみません…

*8:そちら界隈で言うところの左側の人

【観劇記録】6/15 ミュージカル『エリザベート』

 

  • 帝国劇場2019年版の感想です

10代の頃に宝塚版を観劇して以来、ずっと魅せられ続けている作品です。帝劇版は初演と2009年版、2015年版を観ていて、今回で4度目の観劇。この日のキャストは写真の方々でした。

 

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以下、だいたいキャストごとに。

愛希さんの宝塚退団時のエリザはチケットが取れずライブビューイングだったので、やっとリアルで拝見できて感無量。愛希シシィは、逃れることの叶わない場所で悩み苦しみながら、懸命に生きようとした等身大の女性でした。1幕ラスト、真っ白なドレスでフランツの前に現れる場面では、いつもなら美しさと堂々としたたたずまいにため息がこぼれてしまいそうになるんだけど、今回は辛くなってしまった。もちろん美しくはあるんだけれど、その表情は苦渋や諦めを抱えながら必死で矜持を保っているようで、あの登場時の天真爛漫な少女だったシシィはもうどこにもいないんだと思うと悲しかったです。昨年の宝塚版では、というより、今まで見たことのあるどのバージョンでもそんな風に感じたことはなかったので、びっくりした。2幕冒頭の「私が踊るとき」ではトート相手に勝ち誇った表情を見せるんだけれど、続く精神病院慰問では「耐えられず狂いそうになる」と苦しい胸の内を吐露する。そして夫に裏切られて旅に出る頃には笑顔は完全に失われて、ハイネの碑の傍らでやっと安らいだ表情を見せたりと、場面が進むごとに辛さが募るばかり。「キッチュ」で「シシィはものすごいエゴイスト」って歌われてたり、精神病院で自らを皇妃エリザベートだと思い込んでいるヴィンディッシュに対して「跪くのはあなたよ」と窘めるような(観客からするとぎょっとする)台詞があったりするのも、そんな風にならなければ生きていけなかったんだろう、って考えるとすんなりと腑に落ちた。歌は総じて安定していて、危うさはなかったかと。花總さん演じるシシィの高貴さ、気高さが大好きなんですが、愛希さんもまったく異なる魅力のシシィを見せてくれて、これからのご活躍が更に楽しみになりました。

ついに来た!感のあった古川トートは、ポスタービジュアルからもそうなのはわかってたけど実際に舞台に降臨した時の美しさと言ったら……語彙力カモンって感じですよ。天井から降り立ってご登場の時に思ったのは「何て傲慢尊大ナルシストなトート閣下……!」でした。人間なんて下等生物と見下していて、シシィに振られた時も「は? 人間ごときがこの俺を振った?!」と、起こったことが信じられないといったリアクション。で、中盤まではそんな風だったんですが、ルドルフの辺りから変わってきた。「闇が広がる」の後、皇帝への幻想を抱くルドルフをじっと見つめる目は無表情。全てに絶望して死を選ぼうとするルドルフに「死にたいのか」と囁くも勝ち誇ったような色は全くなく、ただそこにある「死」そのもののようでした。それでいて、息子の死を嘆き悲しむシシィの前に現れる時はまた傲慢な顔に戻り、フランツの悪夢に登場した時はそれともまた異なる、圧倒的な力で君臨する黄泉の帝王に。そして、シシィが死を受け入れて旅立つ時には嬉しそうな風ではなく、穏やかな安らぎを与える存在、として静謐ささえ感じる佇まい。場面ごとのこの印象の違いは何なんだろうと考えて、古川トートは「対峙した者の心の在り方によって姿を変える(=その人がイメージする「死」の姿)」トートなのかな、と。宝塚版でも帝劇版でも、トートは特に演じる人によって解釈の異なる役で*1「千年くらい帝王やっていそう」「帝王に就任したばっかり」「割と最近まで人間やってた」「イマジナリーフレンド的」「ドライアイスのような冷たさ」「熱さを感じるが、どこか非現実的でもある」などなど様々なんですが、自分の知っている中でこういうトートは意外と初めてで、こちらも良い意味で意表を突かれました。

成河ルキーニは生理的な不気味さがあった。台詞や態度がおちゃらけていてもなんかこの人怖い、というか、既に人間をやめて人外のものになりつつある(実際「とっくに死んでる」んだけど)ような雰囲気。重要な単語ですっと声の調子を落としたり、あるいは平坦に呟いてみたりと、観客を翻弄して楽しんでいるようでした。2015年の山崎ルキーニにも種類の違う怖さ(裏社会に身を置く人が醸し出すようなそれ)があったので、「なんか怖い」というのは最近の帝劇版のルキーニの傾向なのかな?*2

田代フランツは、終始皇妃への愛にあふれておりました。プロポーズの時から始まって、すれ違いの続く日々の中でも、一夜の過ちを犯してしまったその後も、変わらず妻を愛し続けているのが伝わってきて切なかった。優しく響く歌声が耳に心地よいから更にね……。しかし今回に限ったことではないんだけれど、マダム・ヴォルフの館は王侯貴族も利用する「紳士の社交場」の割に従業員のお姉さんたちの格好がかなりフェティッシュというかそういう意味の女王様っぽいので、あの場所を推薦した重臣のおじ様たち、そしてフランツも結構特殊な嗜好の持ち主なのでは……?

出てきたときにやけにピリピリしてるように感じた木村ルドルフでしたが、闇広の「不安で壊れそう」のくだりで納得。不安とプレッシャーに押しつぶされそうになりながら、精一杯虚勢を張って、手探りで進もうとしている青年でした。「死」に狙われつけこまれたというより、自然と呼び寄せてしまった感あり。彼もまた生きることに必死で、そういうところが母親に似ている。まさに「合わせ鏡」というフレーズがぴったり来る親子でした。

シシィからしたら悪者のゾフィも、(子どもへの体罰云々はよろしくないとは言え)自分の勤めに忠実であろうとしただけで、対話を試みることすら無理なくらい立場は異なっていたし、そもそもの価値観が全く合わなかったんだよなあ……とやるせなくなる。脚本自体はほぼ変わらない作品でも、長い事観ていると自分のとらえ方が変化してくる部分もあるんだよね。最初の頃は舞台全体の美しさやトートの妖しさにばかり目が行っていたけれど*3、段々とシシィの苦しさも身に染みるようになってきて、「夜のボート」での夫婦の姿に涙が出るようになったのは30代になってからだし。

*1:宝塚では髪の色や質感まで違ってて、ウェーブがかった銀髪だけでなく黒髪や金髪、ストレートロングといろいろ。

*2:自分が観た回のみの印象ですが

*3:今ももちろんそこに目は行く

【観劇記録】5/18,5/23 『COCOON』星ひとつ編/月の翳り編

 

注意:ネタバレ全開の感想のため、映像を含め観劇予定の方はスルーを強く推奨します

 

COCOONは同時期に「月の翳り(以下、繭月)」と「星ひとつ(以下、繭星)」という二つの違った作品が交互に演じられる*1という変わった形式にも関わらず、発表されたあらすじは短くぼんやりとした内容で、しかも誰がどの役を演じるかすらわからない状態。結局、過去にダリ、ソフィ、クラウスを演じた方々が出ている繭星を劇場で観て*2、繭月はライビュにしました。

どんな作品になるのか想像もつかない状況で繭星から観劇。

 

 

※以下、シリーズの他の作品も含め思い切りネタバレしています(ところどころ記憶違いなどあるかも知れません)

 

 

あらすじには「ウルの慟哭の結末を描く」とあって、でもそれ「TRUMP」で既に描かれてない?と首を傾げていたら、繭星はほぼTRUMPでした。正確には、SPECTERとグランギニョルを踏まえてウルとダリの視点から再構成したリライト版TRUMPといったところ。元の話では描かれていなかった場面も多いため、単純な焼き直しにはなっていなかったように思います。というより繭月と繭星は単体でも完結しているけれど、二作品が同時に上演されることによって完成する作品なのではないかと(これについては後述します)。

舞台上はまたしても美の暴力。ほぼ白一色の、レースやフリルがふんだんにあしらわれたゴシック全開の衣装で、見目麗しい役者さんたちが舞台を所狭しと歩き、走り、時には剣を振るう……下手側の前から4列目というかなり前方の席だったのも手伝って「なにこれ、美死ぬ(うつくしぬ)……」などと頭の中にわけのわからない語彙が渦巻いておりました……特にダリちゃん(14年後長髪バージョン)な!!

「TRUMP」は劇場で観ていないので、まさか客席からの「ダリちゃーん!」コールに参加できるなんて思わなかった。あの椅子になってる人たち、イスビトっていうのな……。過去のバージョンだと「当然」って感じで座ってるんだけど、染谷ダリちゃんはめっちゃドヤ顔でした。しかも、着席した直後に「トイレに行きたくなった」ってハケようとするし、「♪貴族は大変だー、トイレに行けなーい」とかそんなことを歌いながら*3ふにゃふにゃした盆踊りみたいなのを踊ったりとお戯れまくり。ラファエロとウルが去った後の日替わりは、イスビトの一人に「無人島にひとつだけ持って行けるとしたら何だ?」と聞いて「……枕」「ナイーブか!」てなやり取りの後、ティーチャーグスタフに同じ質問→「(グ)……ミケランジェロ」(めっちゃ嬉しそうなミケちゃん)「(ダ)(ミケに対して)お前の恋愛対象はどっちなんだ!?」「(ミ)(口に指を当てて内緒、のジェスチャーwith微笑)」などという、ティーチャーズによる盛大なノロケが繰り広げられておりました。末永くお幸せに。全体的にギャグシーンがカットになってる中*4で暴れまくっておった。

繭星のウルはDステ版よりも快活で、人気者オーラがにじみ出てました。それだけに、顔をぐちゃぐちゃに歪めながらなりふり構わず永遠の命を求める姿が痛ましくて、観ていて辛かった。ソフィは今までのソフィよりもクールで尖っていたけれど、孤高の雰囲気を兼ね備えてもいて、ウルから見た彼はこうだったのかな、と少し新鮮な気持ちに。そしてラファエロとアンジェリコ。前者は映像で見た時よりも重々しく発せられた「弟を守る」誓いに「随分と重いなぁ」と少々戸惑い、後者は最期の「僕たちがなにしたってんだ」に対して「いや、君たち相当やらかしてるから」と心でツッコミを入れてたりしたんだけど……したんだけど……これについても後述。

ガ・バンリとソフィの関係では「姉さんに似ている」っていうガ・バンリの独白が追加されてて、ネブラ村のあの子が大人になった姿なんだよなー、と4月に本多劇場で観たSPECTERを思い返しつつ感慨。そりゃソフィを助けようと必死にもなるよ、姉の忘れ形見で、自ら名前を与えた甥っ子なんだもの。

ティーチャークラウスの正体は最初から明かされてて、現在の時間におけるアレンのことも早々に判明する。繭星のクラウスは、誰かと会話していてもいつもどこか虚ろで、ひとりだけ別の世界に魂が飛んで行ってしまっているようでした。以前とあるお芝居で、不死の肉体を持った登場人物による「そりゃ狂うわ!」という台詞があって、それを思い出した。しかし、伝説だと信じて疑わなかったTRUMPが実在したどころか、我が子の在籍するクランのティーチャーをしている、ってことを知ったダリちゃんの衝撃はいかなるものだったんだろう。その上更に「(実の父親から受けた呪いに)負けるな」と願ったウルに、自らの誕生を否定するような事を目の前で言われてしまうし。辛いのはわからなくはないけど、それを育ての親の前で言っちゃうのはあんまりだよ、ウル……。全てが終わって、ダリが血の繋がりのない息子の亡骸と対面する場面。周りからめっちゃすすり泣きや嗚咽が聞こえてちょっとびっくりしたけどこれは泣く……私も涙出たし。事前に告知されていたように、今までの作品のような仕掛けや驚きはないものの、一週間以上経った今これを書きながらも、目の前で繰り広げられた情景を脳裏に蘇らせる度に切なくなるお話でした。もちろん殺陣のシーンは複数回あり、役者さんたちの身体能力の高さに目を見張るばかりでした。特にソフィの、相手の攻撃をかわしたりする時の華麗な動きに見惚れた。

 

そして、5日後に繭月をライビュで観劇。

両方に出演してる人は同じ役かな?と予想してたら、繭星でウル役の宮崎さんが演じるのはエミールという別の吸血種でした*5。なんだけど、ラファエロには繭期の症状で弟のウルの姿に見えている、という設定で、配役の絶妙さに唸るしかなかった。

今回新登場のジュリオ*6がかわいい!ストレートロングの黒髪に姫袖のひらひらした衣装で、登場シーンで既に「かわいい子来たー!」と心で喝采してました。「退屈過ぎて涅槃像(by LILIUM)」ありがとう。一人称が「僕ちゃん」で、バルトロメ@SPECTER寄りのエキセントリック君なのかと思いきや、繭期の中で一番冷静な子だった。おっとりしたエミールともども、しんどい話の癒し的存在。ふたりがこちら側にとどまったまま、繭期を越えることができてよかった……。

最初の方の月を見る場面はよくある青春モノっぽいなー……などと若干生暖かい気持ちになってたけど、そんな状態のまま続く訳もなく。息つく間もなく繰り広げられる親愛、憧れ、畏れ、恐怖、執着、愛情と表裏一体の憎しみ等々、登場人物それぞれの強すぎる感情どうしのぶつかり合いの連続に苦しくなって、なのにスクリーンから目が離せなかった。個人的には、上級貴族の跡継ぎという立場を厭うディエゴや、繭期に異常なまでの執着を見せるドナテルロのそれらにちょっと心の琴線に触れる部分があって、それもまた辛かったです……。けれども、ディエゴを否定する特級貴族のアンジェリコも、同じく特級貴族であることの重圧に苦しむラファエロもまた、達観とは程遠い場所にいるのが同時にわかるから、更にしんどい。だって「心の色が見える」というジュリオが見た三人の心の色は「血を流し続けて真っ赤」だったのだし、役者さんたちの舞台上の熱演がそれを裏付けてもいた。

アンジェリコについては、ジョルジュとモローをイニシアチブを用いずに屈服させたシーンは圧巻でした。ふたりが自らの意思でアンジェリコを崇拝していたのなら、それは孤独な彼にとっての(本人はそうはとらえないかもだけど)救いな気がする。いや、わかんないけどな、実は……ってことだったりするかも知れないからな(マリーゴールドのアレを思い出しつつ)!

アンジェリコラファエロも、繭星の時に「ん?」となったあの台詞がこんな経験の上に発せられたと知ってしまったら、もう何も言えないよ。そりゃ弟を守ることに執念を燃やすのも、最期に恨み言めいたことをつぶやくのも当然だよ……。

COCOONは全体に演出が秀逸で美しいんだけれど、繭月ラストシーンのそれは、言葉で表すのが難しいくらいの衝撃でした。白を身に纏う人たちの世界で二人だけ、血に浸したかのような赤を纏ったアンジェリコラファエロ登場人物全員が白の衣装なのは、このためだったんじゃないかと思ったくらい。そして、最後の最後、無数の真っ赤な花びらの塊がアンジェリコの頭上に落ちてくる(降り注ぐではなく)場面でとどめを刺された。

繭月は物語のどこに、誰に惹かれるか(あるいは反感を抱くか)で全く違った感想を抱きそうな作品で、内容にばらつきがあるのも納得。そして、衝撃さめやらぬままの帰り道、繭星のラストでは、舞台の上に真っ赤な花びらが降り注いでいたのを思い出した。ウルにソフィのような友人がいたことが「希望」であっても、息子を立て続けに二人も亡くしてしまって、悲しくないはずがない。ダリちゃんの心は、あの時血を流していたんだ……なんてことに思い至ってまた別の切なさがこみ上げて情緒不安定に陥ってた。

私は星→月の順で観たので、繭星のいくつかの場面が繭月を観ることによって補完された、という印象でした。どちらから観ても問題ないし、冒頭にも書いたようにどちらかだけでも話は通じるけれど、両方を観たことによってはじめて「COCOON」というひとつの作品が「完成」したように感じられた。 

 

これを書いている現在は状況が変わっているかもですが、6月3日(月)の「月の翳り」追加公演分のチケットがまだまだ残っている、とのことで、大阪近辺に住んでいたら!という気持ちでいっぱいです……。もし迷っている方がいらっしゃったら、炸裂する美の暴力、激しい感情のほとばしり、美しく鮮烈などという言葉では言い表せてる気がしない衝撃的な演出の数々を、是非生で観て来て……!

*1:マチネが繭月でソワレが繭星、次の日はその逆、というような感じ

*2:TRUMPシリーズでは、前に演じた役と同じ、もしくは関わりの強い役を同じ役者さんが演じることがよくある

*3:うろ覚えです

*4:めっちゃ貴族でめっちゃすごくてめっちゃえらい、すらなかったりする

*5:他の方々は同じ役

*6:SPECTER再演クラナッハだったのか……びっくり

【観劇記録】4/18 CASANOVA(宝塚・花組)

 

・多少のネタバレを含む感想です

 

楽しかったー!美の極致と言っても過言じゃないのでは?なビジュアルと、これまた素晴らしい曲の数々に終始目と耳が幸福感に包まれておりました。

音楽は「1789 -バスティーユの恋人たち-」と同じ方が手掛けられたということで、好きな曲を挙げたらきりがないくらい*1、期待を裏切らない名曲揃い。カサノヴァが活躍するシーンではカサノヴァの、コンデュルメルたちのそれでは彼らの登場シーンの、というように、それぞれのテーマ曲(?)がインストゥルメンタルで流れるのも良かった。ストーリーは「一体どうしてそうなった??」という場面や急展開な箇所もあり、突っ込んだら負けな気がするのは否めないものの、全体に幸せな空気が漂い、ラストは少し切なかったりして、何よりビジュアルと音楽の満足度が非常に高かったのでまあいいか!となってました。

生田作品は演出が華やかかつダイナミックなので、そこも毎回楽しみにしており、今回も冒頭の裁判のシーンから惹きつけられっ放しだった。ちなみに衣装で一番好みだったのは馬車ラップ*2ベアトリーチェが着てたドレスです。


主人公のカサノヴァは「1000人を超える女と恋人の関係にあった男」という最低野郎。なのに、今まで愛した恋人たちの幻想に囲まれて高らかにテーマソング「人生には恋と冒険が必要だ」を歌い上げる姿を全く嫌味なく、それどころか魅力的に見せることができてしまうのは、女性が男役を演じる宝塚ならではだし、明日海さんのトップスターとしての力量の成せる技なんだろうな。脱獄して逃亡中に出会ったベアトリーチェに運命を感じてしまうのも、屋敷に忍び込んだ時に女官たちを次々骨抜きにしまくってしまう場面も、冷静に考えれば「なんでいきなりそんな心境に?」「その短時間でどうやってその人数をたらしこんだ?!」とハテナマークが飛び交う。なのに「まあそうなっちゃってるんだからそうなんだろう」と納得させられてしまう説得力があったのは、これまで少年から性悪男性、貴族に奴隷と様々な役を演じられてきた経験の賜物なのかも知れません。
仙名さんも溌剌として思い切りの良いヒロイン、ベアトリーチェを活き活きと演じられており、良く通る澄んだ歌声によるソロ曲も複数あって、彼女の退団公演にふさわしい演目だったかと。宝塚の舞台で拝見できなくなってしまうのは寂しいけれど、歌、お芝居、ダンスと申し分ない実力を兼ね備えているのはもちろん、色っぽいのに同時に可憐でもあり、かつパワフルな娘1に出会えたことはとても嬉しいです。
本公演では珍しく、正統派な悪役の柚香さん*3。演じるコンデュルメルは、黒ずくめの衣装と長髪がそれはそれは美しく、妻との関係をこじらせまくりりつつ時にコミカルな役どころがぴったりハマっておりました。が、何よりもフィナーレの仙名さんとのデュエダンや、続く男役群舞で見せた、弾けるようなキラキラの笑顔に射抜かれたことをここに記しておきたい。

それにしても、コンデュルメル夫人役の鳳月さんが予想を遥かに上回っておりまして……登場した時から強い存在感を放ちながらも、普段は男役だということを忘れてしまうくらい妖艶で美しく*4、女声のソロ曲まで切なく、しかも危なげなく聴かせるって一体何事だろう。脇役の子たちにもちゃんと名前があるのに、彼女だけは「夫人」で名前は明かされないのかな……と思ってたら、最後にああ来たか。あの夫婦、結婚当初はどんな様子だったのか、なぜあんなにこじれちゃったのか、などなど気になってしまう。
カサノヴァと行動を共にするもじゃもじゃ神父の水美さんは、結構アレなこともしでかしてるのにどこか憎めない、というより可愛らしさすら感じる三枚目な役どころ。公演ごとの演じる役の幅が広いなあ。悪サイドと思ってた瀬戸さんのコンスタンティンも、後半のバカップルぶりに笑わせていただきました。お幸せにー!

スターだけでなく若手の見せ場もちゃんと用意されていて、原作なしのオリジナル、かつ座付き作家による当て書きだと、こういうところは手厚いね。個人的にはコンデュルメル夫人のしもべのひとり(1匹?)、音さん演じるベネラちゃんがそれはもうかわいくてお気に入りでした*5

ここ数年の本公演では、「うわぁ……(無表情で天を仰ぐ)」というような演目はそんなにないのですが*6、年明けから三本連続で、それぞれの今のトップコンビ・組子の持ち味を生かした作品を観ることができて嬉しいです。ここ半年くらいの劇団の動き(というか人事)に何も思わないと言ったら嘘になるし、次の本公演で退団される明日海さん*7をはじめ、トップや人気スターの退団が続く寂しさもある。けれども新しくなりつつある体制でどんなものが観られるのか、楽しみにしている気持ちももちろんあります。

 

*1:初見のときに耳に残っていたのはカサノヴァの「人生には恋と冒険が必要だ」と、コンデュルメル夫人の曲でした。で、ライビュの時にああーコンデュルメルたちのもベアトリーチェのもカジノに集う若者たちのも、それ以外の曲もいい!ってなった

*2:確かTwitterで見た「タカラヅカディビジョンのユキとアヤカ」というのがとても好き

*3:金色の砂漠のテオドロスや新源氏の六条御息所は悪役とは少し違う気がするし……今回の役に近いのはカリスタのナポレオンかな?

*4:夫婦で並ぶと絵になる……を超越して、なんというか最強

*5:でもってエトワールの歌声がまた綺麗でな……

*6:ないとは言わないんだな……

*7:って書いてる端から寂しくなってきた……

【観劇記録】 1~4月の観劇まとめ(宝塚雪組/星組・薄ミュ風間篇・SPECTERなど)

 

このところ体調を崩したり、別件の書きもので切羽詰ってたりとなかなかまとまった文章を書く時間が取れなかったので、最近観た舞台(ライビュ含む)の感想をまとめて。

 

※多少ネタバレあります 

 

1月

  • 宝塚 雪組『ファントム』

トップコンビの美しい歌声に聴き惚れるばかりでした。こんな見事なお歌を5500円*1で聴けるって何事なんだろう……。特にクリスティーヌを演じた真彩さんはまさに「天使の歌声」で、登場シーンから既にそうなんだけど、エリックのレッスンを受けた後のビストロの場面での歌はそれよりも遥かに素晴らしいもので、その演じ分けに感嘆するしかなかった。後半はあまりにエリックのたどる運命が悲しすぎて辛くなってしまったんですが、全ての元凶のキャリエールも予想以上の好演でした。ベテランどころではコミカルさを前面に出しつつ迫力満点のカルロッタが素敵でした。

 

2月

  • 宝塚 星組『霧深きエルベのほとり』『ESTRELLAS~星たち~』

ストーリーそのものは単純と言えるし、正直古さを感じる部分はある。けれども終盤では涙が止まらなくなった。粗野で無教養だけれど繊細で心優しい船乗り、カールを演じた紅さんがそうそういないんじゃなかろうかというくらいのはまり役だったのはもちろん、カールと恋に落ちる良くも悪くもイノセントな令嬢、マルギット役の綺咲さんもそれはもう文句なしに可愛くて、観ているこちらに全く反感を抱かせなかったのは見事でした。ショーの方はドラマチックな盛り上がりはあまりなかったけど、ひとつひとつのシーンが丁寧に作られていて、飽きることなく楽しめた。この公演で退団の七海さんの見せ場がいくつもあったのも良かったです。二か月連続で、今のトップコンビ(と、各組の組子)だからこその演目を観ることができて嬉しい。

 

3月

  • ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』

  感想はこちら

 

  • ミュージカル『刀剣乱舞』 三百年の子守唄(再演)/ライブビューイング

村正と蜻蛉切の歌の力が半端なかった!演技の方も村正のエキセントリックさはやり過ぎにならない絶妙なバランスだったし、蜻蛉切もこれまたイメージ通りでした。元気いっぱいな物吉貞宗*2と、やさぐれ大倶利伽羅が予想以上にハマってた。刀ステの大倶利伽羅とはまた違ったアプローチでどちらも伽羅ちゃん、という説得力あり。青江はビジュアルのバランスや仕草、台詞回しは良かったけど、ちょっと大人しかったかな?石切丸は阿津賀志山*3の頃よりも落ち着いており、役をきちんと掴めてきている印象でした。初演を見ていないので、ライブパートで「歓喜の華」を聴けるのを楽しみにしてたんですが、今回は別の曲になっててそこは少し残念。ライブでは刀剣男士はもちろん、人間キャストの和太鼓がかっこよかった。ミュージカルパートは……曲はいいものもあったな。物語についてはいろんなところで言われてる通りだと思いましたので割愛します……。時間が経つのが遅すぎて映画館で何度もアナログ時計の針を確認しちゃったよ……。

 

4月

  • ミュージカル『薄桜鬼 志譚』風間千景 篇

薄桜鬼という作品自体のメインは新選組なので、オリジナルキャラクターで隊士ではない風間千景の話を、彼を主役としてそれだけで成立させるのは難しいんだな、と。前半は隊士との場面も少ないし、隊士それぞれのエピソードも他の篇と違って断片的で繋がりがあまりないので、物語に入り込みにくかったのは否めません。ゲーム前半で随所にある風間との絡みは軒並み削られてたもんな……。一幕終盤の山崎の羅刹化あたりからは盛り上がり出し、後半は怒涛の見せ場の連続だったので、そこで不安は払しょくされたけども。しかし新選組好きとしては、隊士が一人また一人といなくなっていく上に、千鶴ちゃんが隊士の誰かと一緒にいて心の支えになっている訳ではないことが、思ってた以上にしんどかった……。もちろんそれぞれの最期はどの隊士もしっかり魅せてくれたし、左之助と不知火の戦いで二年前の左之助篇の音楽が流れて懐かしくなったりもした。一幕に謎の演出*4があったりもしたものの、メインのちー様は文句ナシに格好良く、特にクライマックスの土方との一騎打ちは圧巻でした。

 

  • 宝塚 花組『CASANOVA』

長くなったので別にまとめました。楽しかったー!

 

  • Patch×TRUMP series 10th ANNIVERSARY『SPECTER』

初演は去年の夏の「はじめての繭期*5」で見て、ストーリーは把握した上で、今回の再演版を観劇。物語の根幹である「とある人物が無軌道に突っ走った挙句に多大な犠牲を出す」という部分は、「理由はわからんでもないが何故ああまでめちゃくちゃな方に行っちゃったんだろう?」という疑問を拭いきれないんですが、やはり臥萬里はかっこいいですね。Patchの舞台は初めてリアルで拝見しました。身体能力の高い人揃いなので、特に殺陣の場面は視覚的に見応えがあった。サトクリフとグレコの性格が初演と変わっていて(サトクリフは仲間に対して敬語で話していて一人称が「僕」、グレコは情緒不安定さが増してワンちゃん好き?になってた)、繭期四人組の個性がよりはっきりしたのは良かった。クラウスが冒頭から出てくるようになってたのも、話がすっきりしてわかりやすくなったと思う。グランギニョル好きとしては、萬里と石舟のやりとりに「アホの歌麿」「あの犬っころ」「春林師匠」といった内容が加わってたことにニヤニヤしておりました。TRUMPシリーズでは、前に出演した時の役と関係のある登場人物(もしくは同一人物)を別の作品で演じる、ということがよくありますが、ロダン役がTRUMP再演のオールフィメールバージョンでガ・バンリにあたる役を演じていた人だというのは後で知って二重に驚いた*6

 

*1:東京宝塚劇場A席のお値段

*2:しかし衣装のアンバランスさはもうちょい何とかならんかったんだろうか

*3:本公演を映像で鑑賞

*4:鬼の角の暗示なんだろうけど舞台の左右上方に斜めに刺さった木の板みたいなのが中央に向かってにゅーっと伸びてきたり、ソロの場面でバックダンサーと同じ振りをちー様が途中から踊りだしたり

*5:TRUMPシリーズの過去作品の何本かを日時を決めてYouTubeで無料配信するという何とも贅沢な企画

*6:登場時の声が女性のものっぽかったことにまず驚いた