3次元別館。

主に観劇の感想です。2.5舞台が多めでその他のミュージカルやストレートプレイも。

【観劇記録】5/18,5/23 『COCOON』星ひとつ編/月の翳り編

 

注意:ネタバレ全開の感想のため、映像を含め観劇予定の方はスルーを強く推奨します

 

COCOONは同時期に「月の翳り(以下、繭月)」と「星ひとつ(以下、繭星)」という二つの違った作品が交互に演じられる*1という変わった形式にも関わらず、発表されたあらすじは短くぼんやりとした内容で、しかも誰がどの役を演じるかすらわからない状態。結局、過去にダリ、ソフィ、クラウスを演じた方々が出ている繭星を劇場で観て*2、繭月はライビュにしました。

どんな作品になるのか想像もつかない状況で繭星から観劇。

 

 

※以下、シリーズの他の作品も含め思い切りネタバレしています(ところどころ記憶違いなどあるかも知れません)

 

 

あらすじには「ウルの慟哭の結末を描く」とあって、でもそれ「TRUMP」で既に描かれてない?と首を傾げていたら、繭星はほぼTRUMPでした。正確には、SPECTERとグランギニョルを踏まえてウルとダリの視点から再構成したリライト版TRUMPといったところ。元の話では描かれていなかった場面も多いため、単純な焼き直しにはなっていなかったように思います。というより繭月と繭星は単体でも完結しているけれど、二作品が同時に上演されることによって完成する作品なのではないかと(これについては後述します)。

舞台上はまたしても美の暴力。ほぼ白一色の、レースやフリルがふんだんにあしらわれたゴシック全開の衣装で、見目麗しい役者さんたちが舞台を所狭しと歩き、走り、時には剣を振るう……下手側の前から4列目というかなり前方の席だったのも手伝って「なにこれ、美死ぬ(うつくしぬ)……」などと頭の中にわけのわからない語彙が渦巻いておりました……特にダリちゃん(14年後長髪バージョン)な!!

「TRUMP」は劇場で観ていないので、まさか客席からの「ダリちゃーん!」コールに参加できるなんて思わなかった。あの椅子になってる人たち、イスビトっていうのな……。過去のバージョンだと「当然」って感じで座ってるんだけど、染谷ダリちゃんはめっちゃドヤ顔でした。しかも、着席した直後に「トイレに行きたくなった」ってハケようとするし、「♪貴族は大変だー、トイレに行けなーい」とかそんなことを歌いながら*3ふにゃふにゃした盆踊りみたいなのを踊ったりとお戯れまくり。ラファエロとウルが去った後の日替わりは、イスビトの一人に「無人島にひとつだけ持って行けるとしたら何だ?」と聞いて「……枕」「ナイーブか!」てなやり取りの後、ティーチャーグスタフに同じ質問→「(グ)……ミケランジェロ」(めっちゃ嬉しそうなミケちゃん)「(ダ)(ミケに対して)お前の恋愛対象はどっちなんだ!?」「(ミ)(口に指を当てて内緒、のジェスチャーwith微笑)」などという、ティーチャーズによる盛大なノロケが繰り広げられておりました。末永くお幸せに。全体的にギャグシーンがカットになってる中*4で暴れまくっておった。

繭星のウルはDステ版よりも快活で、人気者オーラがにじみ出てました。それだけに、顔をぐちゃぐちゃに歪めながらなりふり構わず永遠の命を求める姿が痛ましくて、観ていて辛かった。ソフィは今までのソフィよりもクールで尖っていたけれど、孤高の雰囲気を兼ね備えてもいて、ウルから見た彼はこうだったのかな、と少し新鮮な気持ちに。そしてラファエロとアンジェリコ。前者は映像で見た時よりも重々しく発せられた「弟を守る」誓いに「随分と重いなぁ」と少々戸惑い、後者は最期の「僕たちがなにしたってんだ」に対して「いや、君たち相当やらかしてるから」と心でツッコミを入れてたりしたんだけど……したんだけど……これについても後述。

ガ・バンリとソフィの関係では「姉さんに似ている」っていうガ・バンリの独白が追加されてて、ネブラ村のあの子が大人になった姿なんだよなー、と4月に本多劇場で観たSPECTERを思い返しつつ感慨。そりゃソフィを助けようと必死にもなるよ、姉の忘れ形見で、自ら名前を与えた甥っ子なんだもの。

ティーチャークラウスの正体は最初から明かされてて、現在の時間におけるアレンのことも早々に判明する。繭星のクラウスは、誰かと会話していてもいつもどこか虚ろで、ひとりだけ別の世界に魂が飛んで行ってしまっているようでした。以前とあるお芝居で、不死の肉体を持った登場人物による「そりゃ狂うわ!」という台詞があって、それを思い出した。しかし、伝説だと信じて疑わなかったTRUMPが実在したどころか、我が子の在籍するクランのティーチャーをしている、ってことを知ったダリちゃんの衝撃はいかなるものだったんだろう。その上更に「(実の父親から受けた呪いに)負けるな」と願ったウルに、自らの誕生を否定するような事を目の前で言われてしまうし。辛いのはわからなくはないけど、それを育ての親の前で言っちゃうのはあんまりだよ、ウル……。全てが終わって、ダリが血の繋がりのない息子の亡骸と対面する場面。周りからめっちゃすすり泣きや嗚咽が聞こえてちょっとびっくりしたけどこれは泣く……私も涙出たし。事前に告知されていたように、今までの作品のような仕掛けや驚きはないものの、一週間以上経った今これを書きながらも、目の前で繰り広げられた情景を脳裏に蘇らせる度に切なくなるお話でした。もちろん殺陣のシーンは複数回あり、役者さんたちの身体能力の高さに目を見張るばかりでした。特にソフィの、相手の攻撃をかわしたりする時の華麗な動きに見惚れた。

 

そして、5日後に繭月をライビュで観劇。

両方に出演してる人は同じ役かな?と予想してたら、繭星でウル役の宮崎さんが演じるのはエミールという別の吸血種でした*5。なんだけど、ラファエロには繭期の症状で弟のウルの姿に見えている、という設定で、配役の絶妙さに唸るしかなかった。

今回新登場のジュリオ*6がかわいい!ストレートロングの黒髪に姫袖のひらひらした衣装で、登場シーンで既に「かわいい子来たー!」と心で喝采してました。「退屈過ぎて涅槃像(by LILIUM)」ありがとう。一人称が「僕ちゃん」で、バルトロメ@SPECTER寄りのエキセントリック君なのかと思いきや、繭期の中で一番冷静な子だった。おっとりしたエミールともども、しんどい話の癒し的存在。ふたりがこちら側にとどまったまま、繭期を越えることができてよかった……。

最初の方の月を見る場面はよくある青春モノっぽいなー……などと若干生暖かい気持ちになってたけど、そんな状態のまま続く訳もなく。息つく間もなく繰り広げられる親愛、憧れ、畏れ、恐怖、執着、愛情と表裏一体の憎しみ等々、登場人物それぞれの強すぎる感情どうしのぶつかり合いの連続に苦しくなって、なのにスクリーンから目が離せなかった。個人的には、上級貴族の跡継ぎという立場を厭うディエゴや、繭期に異常なまでの執着を見せるドナテルロのそれらにちょっと心の琴線に触れる部分があって、それもまた辛かったです……。けれども、ディエゴを否定する特級貴族のアンジェリコも、同じく特級貴族であることの重圧に苦しむラファエロもまた、達観とは程遠い場所にいるのが同時にわかるから、更にしんどい。だって「心の色が見える」というジュリオが見た三人の心の色は「血を流し続けて真っ赤」だったのだし、役者さんたちの舞台上の熱演がそれを裏付けてもいた。

アンジェリコについては、ジョルジュとモローをイニシアチブを用いずに屈服させたシーンは圧巻でした。ふたりが自らの意思でアンジェリコを崇拝していたのなら、それは孤独な彼にとっての(本人はそうはとらえないかもだけど)救いな気がする。いや、わかんないけどな、実は……ってことだったりするかも知れないからな(マリーゴールドのアレを思い出しつつ)!

アンジェリコラファエロも、繭星の時に「ん?」となったあの台詞がこんな経験の上に発せられたと知ってしまったら、もう何も言えないよ。そりゃ弟を守ることに執念を燃やすのも、最期に恨み言めいたことをつぶやくのも当然だよ……。

COCOONは全体に演出が秀逸で美しいんだけれど、繭月ラストシーンのそれは、言葉で表すのが難しいくらいの衝撃でした。白を身に纏う人たちの世界で二人だけ、血に浸したかのような赤を纏ったアンジェリコラファエロ登場人物全員が白の衣装なのは、このためだったんじゃないかと思ったくらい。そして、最後の最後、無数の真っ赤な花びらの塊がアンジェリコの頭上に落ちてくる(降り注ぐではなく)場面でとどめを刺された。

繭月は物語のどこに、誰に惹かれるか(あるいは反感を抱くか)で全く違った感想を抱きそうな作品で、内容にばらつきがあるのも納得。そして、衝撃さめやらぬままの帰り道、繭星のラストでは、舞台の上に真っ赤な花びらが降り注いでいたのを思い出した。ウルにソフィのような友人がいたことが「希望」であっても、息子を立て続けに二人も亡くしてしまって、悲しくないはずがない。ダリちゃんの心は、あの時血を流していたんだ……なんてことに思い至ってまた別の切なさがこみ上げて情緒不安定に陥ってた。

私は星→月の順で観たので、繭星のいくつかの場面が繭月を観ることによって補完された、という印象でした。どちらから観ても問題ないし、冒頭にも書いたようにどちらかだけでも話は通じるけれど、両方を観たことによってはじめて「COCOON」というひとつの作品が「完成」したように感じられた。 

 

これを書いている現在は状況が変わっているかもですが、6月3日(月)の「月の翳り」追加公演分のチケットがまだまだ残っている、とのことで、大阪近辺に住んでいたら!という気持ちでいっぱいです……。もし迷っている方がいらっしゃったら、炸裂する美の暴力、激しい感情のほとばしり、美しく鮮烈などという言葉では言い表せてる気がしない衝撃的な演出の数々を、是非生で観て来て……!

*1:マチネが繭月でソワレが繭星、次の日はその逆、というような感じ

*2:TRUMPシリーズでは、前に演じた役と同じ、もしくは関わりの強い役を同じ役者さんが演じることがよくある

*3:うろ覚えです

*4:めっちゃ貴族でめっちゃすごくてめっちゃえらい、すらなかったりする

*5:他の方々は同じ役

*6:SPECTER再演クラナッハだったのか……びっくり