3次元別館。

主に観劇の感想です。2.5舞台が多めでその他のミュージカルやストレートプレイも。

【観劇記録】2024年1〜4月

 

丸一年以上舞台の感想を書いていませんでしたが、しっかり観劇はしてました。チケット代をはじめ物価高の影響でコロナ禍前よりだいぶ回数は減ってしまってるんだけども。選挙権ある人は選挙行って、少しでもマシな人を選んでこうな…!

以下、観劇直後のメモを元にしたライブビューイング含む観劇感想です。宝塚*1関係多め。

※しっかりネタバレを含みます。作品によっては「これはちょっとなあ…」という点にも言及してます。

 

1月

『イザボー』

演出良い、音楽かっこいい、出演者の歌は皆さんすごくいいしお芝居も◎、ストーリーも面白かった。が、どういう感情を抱けばいいんだイザボー・ド・バヴィエールに。演じる望海風斗さんはそりゃもう格好良かったし美しかったんだが、イザボーは共感どころか同情すらさせてくれないんだもんよ……。シャルル七世が歴史的にどういう事をしていた人なのか全然把握してなかった(宣伝の段階で意図的に隠してたよね多分)ので、1幕ラストでようやくジャンヌ・ダルクが出てくる直前の話ということがわかり、幕間に史実をささっと頭に入れて2幕に備えた。 後半は固有名詞が更にややこしくなったので、直前に予習しといて良かったかも。ラストの開き直り(言い方ー!)+大量の真っ赤な花びらか落ちてくるところは痺れました。赤の花びらどさーは繭月と同じ演出だけど受ける印象は全然異なって、こちらの方はどこか爽快だった。テーマ曲(でいいのかな?最初と最後の方で歌ってたロック調の曲)好き。

 

宝塚月組G.O.A.T』~Greatest Of All Time~(ライビュ)

プレサヨナラショー的位置付けのコンサート。 幕開きから雪組時代(蒼紫様ー!)も含めた月城さん出演作の振り返りで懐かしくなる。ポッキー巡査とハンサムガイもいたよ!「トップさん大好きです!」の圧をあまり感じなくてほっとした。あの手のやりとり、近頃は定番化かつやり過ぎになってきて、少々食傷気味なので…。複数の組子たちの出番がしっかりあって楽しかった。月ノ塚学園は、最初セーラー服の女子たちをそんなに色っぽく踊らさなくても…と若干引きかけたけど、コント風のお芝居は笑っちゃったし、女子も男子もメロメロにしちゃう先生→教えを受けた生徒たちのセクシー全開のタンゴ、というオチに納得*2。娘役さんたちの色っぽく挑発的な表情が実にいい。スケバン鳳月さん?好きに決まってるじゃないですか。海乃さんのダンスの見せ場(人形っぽい振りとか扇を使ったダンスとか!)が複数あり、ミーマイの顎で受けなさいとか、グランドホテルのボンジュールアムールとかも聴けて嬉しい。鳳月さんのアコースティック英語歌唱も聴かせてくれたし、風間さんはお芝居だけでなく歌も安定してることを再確認。

 

2月

宝塚雪組『ボイルド・ドイル・オンザ・トイル・トレイル/FROZEN HOLIDAY(フローズン・ホリデイ)』(ライビュ)

チケット確保してたのに販売後に一方的に告げられたスケジュール見直しとやらで消え、千秋楽ライビュがマイ初日マイ楽になった事は忘れないからな劇団よ……。

ボイルド〜は、良くも悪くも生田作品という感想。彩風さんのコナン・ドイルのトホホ感は新鮮かつしっかりハマってもいたし、ルイーザ、ホームズ000、編集長は、この人のこういう役、シーンが見たかった!という絶妙さだし、テンポは良いし華やか。だが風呂敷の畳み方が大雑把過ぎる…ホームズと対話しなよと妻にアドバイスされて、その方向に行くかと思ったのに全然対話せずに和解しちゃってるし。コナン・ドイルの自分の書きたいものを書く!という欲求と世間に求められてるものが違うといういう苦悩がもやーっとなんとなく無くなっちゃっててなんだかなあ…。ルイーザも突然倒れて突然蘇って、頭が追いつかなかった。モリアーティ教授対ホームズのくだりはそう来るか!と、とても面白かったのに、結局ラストがいつものふんわり自分探しだったのは残念*3。当て書きの上手さは流石で、彩風さんのコミカルで髭とスーツが大層似合うコナン・ドイルも、夢白さんの超パワフルでポジティブで時に物騒なルイーザも見ていて楽しかった。朝美さんのルックス・芸風とも一般にイメージされるホームズ像からは結構かけ離れてるのに、「作者であるコナン・ドイルの目から見たホームズ」という方向性でアイドル的華やかさと悪魔的な怖さを同時に描き、演者の持ち味を存分に生かした上で破綻なく見せたのはナイス。職人気質の頑固さと少年のような目の輝きを持ち、和希さんの魅力が余す所なく発揮されていた編集長のキャラクターや、編集部員の(うるさくなるギリギリの)賑やかさも良かったです。縣さんのペテン師→堅気のペン売りのオチもいい。

フロホリはいくらなんでもカオス過ぎ!楽しかったけど!スチールを見た時点で相当トンチキなのは想像できてたけど、超絶キュートな料理人カルテットの後に和装チームが出てきた時点で笑い堪えてたから!その後もローストチキンのギター構えたDJとか、エエ声でブッシュドノエル〜と歌いながらシスター達を侍らせて登場(あれは侍らせてるとしか…)の神父とか、キャンディケーン片手に当然のようにトナカイちゃんたちを侍らせたチャラいサンタwithモノグラム柄の袋とか、事前に知ってはいてもいざ見た時のカオスっぷり……トップコンビに至ってはザ・スキー場の華カップルだよ!なんでそこだけリアルにリア充なんだよ!カオスにも程があるよ!!そしてクリスマスからの神父・和希さん退団はなむけシーンでしんみりしてたら、カウントダウンが始まってお正月であけおめだよ!あれ大晦日だったの?!しかも神父もしれっと後からお正月群舞に加わってるし!椅子に座ってのロケットとか、後半の「雪の華」群舞とか見応えあったけど!

 

舞台『HiGH&LOW THE 戦国』(ライビュ)

芝居、ダンス、歌と複数方向に楽しめる、大変贅沢なステージでした。LDHの皆さん、ダンスや殺陣は流石の迫力、歌も素敵な歌声で聴かせてくれて期待以上!黄斬の片寄さんは若きリーダーとして立ち上がろうとする姿に説得力があり、玄武のRIKUさんは歌、ダンスともパワフルで素晴らしく、藤原さん演じる弦流はルックスに加えてダンスと立ち居振る舞いがとても美しくて眼福。瀬央さんの吏希丸、見るからに漢っぽい須和国メンバーに混じっても特に違和感がなくてびっくり。さすがに声は女性のそれなんだけどすぐ馴染んだし、前のリーダーの息子という事で品のいい雰囲気が漂ってるのが設定的に無理ないし、黄斬もお顔立ちが可愛い系なのでビジュアルが合う。親友タイプの瀬央さんだなーと見てたら、悪役(ではなかったんだけど最終的に…てのがまた!)モードもあって、役者さんの見せ方をわかっていらっしゃるなあ、と感じられる脚本&演出でした。多分アドリブ?のラインダンスの脚上げが綺麗過ぎてなんか笑ってしまった。湧水様(様付けで呼ばせていただきたい)、出てきた瞬間からもうかっこいい……。ビジュアルはとても麗しいのに一人称「俺」で、台詞回しも低音でよく通る声でしっかり「漢」だった。 水美さんは本拠地の舞台でのダンスは豪快で爽快感を強く感じるんだけど、ザ戦では優美さが際立ってました。宝塚では見たことがないタイプの役で、「楽に死ねると思うなよ」とか痺れた……。こちらもアドリブでラインダンスがあって、やはり脚上げが高くて綺麗。そして、弦流の湧水への眼差しや距離感が随分熱っぽいなーと思ってたら、ガチの恋だった。その話が出てきた時、実は女性でしたネタじゃないよな、だったらやだなーと危ぶんだけどそこは大丈夫でした。二人の行く末は切なかったけど、種類は違ってもお互いの間に「愛」はちゃんとあったんだよね、と感じられるものだった。セクマイ殺されがち問題はあるのでそこはスルーしてはいかんよねとも思うのですが、自分としてはザ・漢なイメージのLDHで全く茶化さずに男同士の恋愛話を真剣にやってた事が良かった、という気持ちが強かったりします。そしてスペシャルカテコ。メンバー紹介は普通に楽しかったんですが、「青い星の上で」を玄武(カテコは全員本編の衣装のままでしたので)が歌ってくれるなんて…!しかも、こんなシンプルな言葉で表現するのが憚られるくらい上手いし!こういうコラボ嬉しいなーとにこにこしてたら湧水様まで「私はもっとLDHを感じてみたい!」みたいなことを言い出して、吏希丸とかも加わってLDH曲のダンス…!こういうコラボほんと楽しい&嬉しい!!

 

3月

宝塚花組アルカンシェル』~パリに架かる虹~宝塚大劇場

柚香光さんの退団公演ということで、約1年半ぶりに大劇場へ。柚香さんの超絶技巧ダンス、及び表情の一つ一つ、手指や爪先に至るまで卓越した身体能力を駆使したお芝居を360度心ゆくまで味わえる。演じるマルセルがピエロの衣装を脱ぎ捨てた後のモダンダンス…全身にバネでも仕込まれているような動きで、一体何を見せられたんだ?星風カトリーヌの堂々たる歌姫ぶり、大人の女性の落ち着きとそれに見合う可愛らしさ、ぴったりと息のあったデュエットダンスは、娘役としての集大成を見た思い。就任直後の初々しくて可愛いまどかさんも良かったけど、こんなに力強くて素敵なレディになられるなんて(感慨)。レビューのシーンが多く、種類もジャズ、ラテン等複数あって華やかなので、一本物でショーがないことへの不満は全くなし。永久輝さん演じるフリッツは純朴青年全開で好感大。星空さんは綺麗な歌声に加えてお芝居も堂々としてきてた。綺城さんの屈折した役、輝月さんのコッテコテの悪役はやはり大変かっこいい。ストーリーは、直近で観た外部含むイケコ氏オリジナル4作の中では一番マトモだと思います。祖国のため愛する人のため!の暑苦しい圧はなくもないがそんなに強くはない*4し、登場人物の半分以上がおバカということもないし。ツッコミどころは相変わらず満載だけど…特にフリッツ!文化的な功績を買われてパリに来る→やらかして慰問団に左遷、まではまだいい。捕虜を逃して、しかもその捕虜が彼と関わりのあった劇場の演者の1人だった、ってどう考えても貴様関与してたな?ってなりそうなもんなのに、何故またパリ拠点の極秘任務に関わらせるの?レジスタンスに情報流されるかも(実際流してたし…)とか考えなかったのドイツ国防軍??作中でのドイツ側の描き方は自分は特に引っ掛からなかったけど、批判がある、という事は忘れないでおきたい。聖乃さんは語り手役で、お芝居と歌の発声が力強くなってきてるのは大変頼もしいのですが、1人だけぽつんと離れたポジションで本編中もほとんどメインの登場人物と直接関わらないのは、もう少しなんとかならんかったのか。今回思ったのは、イケコ氏は広げた風呂敷の畳み方、特に脇役、悪役のサブプロットの畳み方が抜群に上手いんだよなあという事。本編がツッコミどころだらけでもラストの後味の良さでなんか誤魔化…いや、なんとなく満足させられてしまう。 「アルカンシェル」は爽快感のあるハッピーエンドで、ラストシーンのマルセルとカトリーヌがの満面の笑顔で手を取り合って歩く姿にちょっと涙出たし。フィナーレは、特に柚香さん中心の男役群舞が、フォーメーション、振り付け、衣装とも大変好みでした。

先日、東京宝塚劇場での観劇も叶い、本編では泣かなかったんだけど、フィナーレのデュエットダンスの美しさに涙が出てきた。そして、最後に柚香さんが一人で踊るところでオペラを構えるのも忘れて見入りながら、めっちゃ泣いてしまった…。

 

宝塚星組『RRR × TAKA"R"AZUKA ~√Bheem~(アールアールアール バイ タカラヅカ ~ルートビーム~)』『VIOLETOPIA(ヴィオレトピア)』

RRRはかなり映画に忠実で、冒頭のマッリの歌(映画と同じ曲!)で既にテンションが最高潮でした。水、炎のコロスやダンサーも◎。ドスティとか流れてくるだけでわくわくするし、ビームとラーマが仲良くなっていくくだりの、舞台での表現の仕方もよかった。提督夫人キャサリン*5の高貴な品のよさなど、宝塚版ならではの表現も光る。コムラムビームドは映画では流血ありで凄惨なので「うわ痛そう、早くやめたげて…」と画面を見るのがちょっと怖かったんだけど、星組版ではマイルドになってて、その分旋律の美しさと歌の迫力に集中できた。最初から客席も高速手拍子のナートゥ、舞台の端から端まで広がって圧巻だったけどあれは膝取れそうにもなるわ。そう言えば皆歌いながらあれ踊ってたよね、2回公演の日もあるんだよね……体力おばけ……。ストーリーは多少端折りつつも要所要所がしっかり押さえられており、上手くまとめたなあと感心しきり。ラーマの過去が多少あっさりしてる感はあるけど、ストーリー展開に必要な部分はちゃんと提示されてたし。てか暁さん髭似合いすぎだし軍服もラストの衣装も着こなしが板についていて、全編通して非常にかっこいい。ナートゥでの噛ませ犬ポジ(言い方…)からジェニーの婚約者にランクアップしたジェイク、映画見た時からこの人は極美さんかな?なとと思ってただけあり、いかにもな立ち居振る舞いににやにやしつつ、頼まれたとは言えクライマックス近くでビームに協力することになったのは、ダンスバトルを戦い抜いて友情的なものが芽生えちゃったんだろうか(えっまさかの?!て普通に笑っちゃった)。RRRは間違いなく礼さんの代表作になったと思う。兄貴と慕うラーマと仲良しのとことか、ジェニーにときめいてるとこは微笑ましいのに、コムラムビームドの圧倒的な歌声の力強さやクライマックスの槍さばきの格好良さ!ジェニーは映画でもそうだったように少々都合のいいポジションなのは否めないんですが、出てきただけで周りの空気がパッと明るくなる可愛さ全開。シータはお芝居が上手く、マッリは歌声が美しい。ビームの仲間のペッダイヤとジャングのコミカルさに和む。ラッチュの演技もとてもいい感じ。

ヴィオレトピアは性癖ドストライクでした。デ・キリコ、ルドン、天野可淡夢野久作あたりを彷彿とさせる、不穏で美しい悪夢の世界。幕開きから好みの予感がして、オープニングの後の稽古場みたいな場面は最初は明るいのに途中からどことなく不穏になってきて、これは?!と期待が高まったところで噂のサーカスの場面。なんだこれ…真っ赤な衣装の隊列に、不穏極まりない曲。美しいのに誰かの悪夢を垣間見ているみたい。真っ白な服の少女と蛇の青年、惹かれ合う二人を快く思わない団長、三角関係的な構図としては珍しくないのになんだろうこのザワザワする薄気味悪さ。この時点で口角が上がりまくってた。場面の終盤も、悲しむ少女の背後に真っ赤な照明+隊列の影絵という美と喪失感と不穏さの合わせ技でしばし動悸が収まらなかった。中詰は衣装可愛いし客席降りも2階まで来てくれて賑やかなのに、不協和音的なものも感じるし、主のいない楽屋も不穏だし、そしてシルクハット+ゆったりしたメンズ仕様の黒スーツ姿で踊る美女だけでもひゃあああーーーこんな舞空ちゃん見たかったーーー!!なのに、ミニワンピ+ガーターベルトの暁さんがガチ美女……さっきのかっこええラーマと同一人物だよ、わーーー!!!続くシーンでそれまでの登場人物(舞台稽古してた青年とかサーカス団の団長とかさっきの男装の美女とか)も出てきて、主人公の青年、礼さんが苦悩を浮かべた表情で、モダンダンスのような振りを薄暗い中で一人踊る…なんなのこの性癖尽しのショーは。ロケットも衣装の色合いがなんか落ち着かないし、大階段もサングラスだし、あまりに不穏で不協和音で悪夢。ストレートに爽やかだったのは天華さんをはじめとした退団者の旅立ちのシーンと、デュエダンくらいじゃないかしら。パレードの薄紫の衣装はリアルで見るととても美しくて好みでした。異色のショーで、合う合わないが分かれるのはわかる。私は思いっきり前者ですけど!!!*6

 

4月

剣劇三國志演技~孫呉

※ちょい辛口めです

脚本、演出、役者個々の技量とも決して悪くないのに、いろいろと勿体なかった。孫策周瑜の掛け合いのシーンで毎回なんとなく違和感があり、他の役者とのそれではそんなことないのになぜ?と中盤まで首を捻ってたんだけど、孫策周瑜、それぞれの芝居のタイプが噛み合ってない…。 刀ステでの共演時には全くそんな事なかったのに。前者は台詞の滑舌や声量、演技力は申し分ないがいかにも舞台っぽいお芝居という感じ(もちろんそのことが悪いわけでは決してない)で重く、後者も決して下手とは思わないし単体なら全然おかしくないんだが、ナチュラル寄りで軽い。もう少し歩み寄るか、いっそどっちかを明確に主役に据えて、そちらに芝居のタイプを合わせた方が良かったんじゃないか。ダブル主演と銘打った公演でそうもいかなかったんだろうけど。脚本は大きな破綻はなくちゃんとまとまってたものの、内容的には明治座よりサンシャイン劇場や青年館とかでやった方がしっくり来たんじゃないかな。出来不出来でなく劇場の雰囲気に合うかどうかの話。途中思いっきりマクベスハムレットなのはオリジナル作品だからいいんだけど、なんで三国時代の中国で味噌汁?味噌の汁物的なものが存在しててもおかしくはないが、三國志ワールドの、しかもシリアスな場面で「味噌汁」って思いっきり言っちゃうのはどうなんだ…。演出は良くて、周り舞台を活用して華やかに見せたり、水や雪の表現が美しかった。おじさん三人組、孫策父と劉表黄祖主従の安定感はベテランの域だし、太史慈は殺陣の美しさとスピードが凄まじかったし、孫権は少々荒削り感はあるものの役柄的にぴったりだった。二部の殺陣ショーはとても見応えがあり面白かったです。ペンラを振るのでなく、入り口で配ってたハリセンを叩くのが新鮮だった。周瑜の役者さん、別の舞台でも思ったけど、殺陣が踊りみたいで大変綺麗でした。ああいう殺陣は個人的にとても好き。孫策のお芝居は、本編も二部のあのくらいの重量感で良かったんじゃないかなあ…。

 

宝塚雪組『仮面のロマネスク』『Gato Bonito!!』(全国ツアー・ウェスタ川越)

かめロマって、超超超プライドの高い極悪ツンデレカップルによる周りを巻き込んだ盛大な痴話喧嘩なんだなあと、事前に漫画で復習+演目自体の観劇3回目にして思いました。初観劇の初演はほぼ覚えておらず、2回目のみりかのの時はあまりにすげえ話でポカーンとなってたので……。事前に読んだ漫画はさいとうちほさんの「子爵ヴァルモン」。原作の「危険な関係」準拠なので結末はかめロマとは結構違うんだけど、元々さいとうさんの漫画作品が好きで、話の流れを追うには良かった。原作はかなり救いのない話なんだな…。*7

朝美ヴァルモンは、トゥールベル夫人を狙う時のギラギラした目つきといい手慣れた仕草といい絶対落としてやるという気迫が凄まじく、さながら凄腕の狩人だった。やってる事は最っっっ低なんですけど!セシルとの一夜()の後の、爽やかな笑顔から垣間見える別の何かやちょっとした手つきも非常にやらしく(※全力で褒めてます)、貞淑な人妻や無垢な令嬢は狙われたらひとたまりもないでしょうよ…というか狩りモードの時に対峙して正気を保てるの、夢白メルトゥイユ侯爵夫人くらいじゃなかろうか。恋愛を愉しむというより、ターゲットを征服して自分のものにすることがメインっぽいというか、結局本命は同類の元カノ・メルトゥイユ夫人だけなんだよね?というのがわかりやすかった。叔母の前では少年ぽさがあり、ダンスニーとかと会話してる時は気さくで頼れるお兄さんなのがまた非常にタチが悪い。朝美さんはずっと陽のイケメン役のイメージが強かったんですが、2番手に就任して以降、ダークな部分のある役もしっかりとこなされるようになってますね。夢白ちゃんは第一報のその時から絶対合うと信じてたけど、登場した時から「美しく高貴な仮面の下で策を弄しまくり、数々の男を手玉に取って食いまくってる(けどプライドがめっちゃ高いので元カレが他の女といちゃついてんのは気に食わない)」貴婦人そのものだったもの。どの瞬間もどの衣装でも、周囲を圧倒する美しさの前にひれ伏すしかなかった…。「(ご褒美は)あ・た・し」の時の妖艶で蠱惑的な口調、表情が最高。やっとヴァルモンと向き合えた時の顔はまさに「仮面を外した素顔」で、細やかな変化で魅せてくれました。ラストは、今生の別れを悟ってやっとお互いにツンデレ解除した、ってことでいいのかな?金色の砂漠を思い出した*8。希良々トゥールベル夫人は肉食獣に狙われたか弱い草食動物のようで、完全に被害者だったから気の毒過ぎる…。セシルもまた然り。華純さんは別箱ヒロイン経験者なだけあって、お芝居がとても良かった。ダンスニーと恋に落ちた時の初々しさ、ヴァルモンに(略)な朝の狼狽えた様子とか。酷い大人たちに酷い目に遭わされたのは可哀想だが、どうかあの大型犬の仔犬を思わせるピュア一直線の縣ダンスニー君と幸せになって…。記憶してた以上に笑っちゃう場面もあり。コソ泥使用人トリオとか、痴話喧嘩を始めたツンデレカップルの前で慌てるほぼ間男なダンスニーとか。音楽と演出、衣装、照明、セットはやはり美しいです。これに、最早枕詞のように言われまくっている出演者の美が加わると、視覚は幸せ通り越して情報過多でなんじゃこりゃ状態ですね(語彙はとっくに家出しました)。主役二人が揃ってここまで外道なのは多分宝塚でも珍しいレベルだし、好き嫌いも分かれると思う。けど、予習もした上で改めて観るとセシルはあまりに単純で素直過ぎるし、ダンスニーはびっくりするぐらいピュアだし、信仰心の篤いトゥールベル夫人も見方を変えれば世の中の規範に従順過ぎる人で、あの二人がかれらにイラっとしてしまうのもわからなくは……いやだからといって何の罪もない人たちを踏み躙っていい訳ないんだけど!そんな葛藤にぐるぐるさせられつつ、どうにも嫌いにはなれない作品です(ツンデレ的表現)。

ガトボニは、本公演の時は濃過ぎてお腹いっぱいになっていたんだけど、全ツサイズだとちょっと個性のあるラテンショー、という趣で楽しく見られた。毎度毎度、ショーの度に視線を掻っ攫っていく夢白ちゃんは今回もオペラ泥棒でした。ラテンめっちゃ似合う。朝美さんは認識していたよりも歌唱が安定しており、黒猫のタンゴは可愛く、チャウシーの場面では抜群の声量で聴かせてくれた。やはり縣さんはダンスが映えるな。黒猫のタンゴの日替わりは埼玉ネタ。「僕、雨男なんですが埼玉はしっかり晴れてくれました。次の地まで翔んでいきます(with埼玉ポーズ)!」みたいな感じでした。初代ガートボニート君は淡々とした語りから醸し出されるシュールさが魅力だったけど、二代目ガートボニート君のニコニコ笑顔とノリの良さも捨てがたい。最初の方の煽りは「ありがとう埼玉!」だったかな。2階席後方でしたがかなり観やすかった。音響はお芝居は全く気にならず、ショーはちょっと聞こえにくい部分もあったけど気になる程ではなかったかな。ご当地生徒の紹介は男役さん一名で「埼玉大好きにゃー!」みたいなニュアンスでした。かわいい。帰りにいも恋買いました。

*1:昨年起きた事は新聞の報道などで把握していて、過重労働はもちろん、パワハラの件も事実だと受け止めています(というか娘役の徹夜でアクセサリー手作りとかを美談にするのはおかしいし、組を問わず超のつく体育会系の組織でパワハラが無い訳ないし)。 今も観劇は続けていますが、経営陣を含め劇団に対して思うことは多々あり、一部のファンのような無理筋の擁護をする気も全くないです。

*2:外国人教師のカタコトアクセントで笑いをとるのはどうなんだろうとは思うが。月城さんなら標準語でも十分面白く演れただろうし。

*3:全体にふんわりしていた上に締めが「幼い頃の傷ついたあなたを愛してあげて」でメンタルケア本のようだった某リストよりは遥かにマシではあるんだが…。

*4:個人的にネバセイはそういうとこが無理だったので……

*5:エンディングの客席降りで視線のまっすぐ前に来てくれて、わあああ小桜さんお顔小さい、お人形みたい、綺麗、かわいいいい!と心で叫んでた

*6:一応言及しとくと、ヴィオレトピアの演出家の指田氏の文春砲の件は把握していて、事実なら猛省していただきたいと思ってます。環境的に麻痺してた部分は大いにあるのだろうけど、これまでに手がけたミュージカルの三作品も好きなファンの一人としては、パワハラをやめた上で作品を作り続けて欲しいと願っています。

*7:ヴァルモンはダンスニーとの決闘で命を落とすし、メルトゥイユ侯爵夫人は天然痘で美貌が台無しになるし、トゥールベル夫人は心労でお亡くなりだし、全てに幻滅したセシルは結婚も断って修道院に戻っちゃうし

*8:加えてラストの二人だけの舞踏会に神々の土地を思い起こした自分はウエクミファンです