3次元別館。

主に観劇の感想です。2.5舞台が多めでその他のミュージカルやストレートプレイも。

【観劇記録】10/30 蒼穹の昴(宝塚・雪組)

 

・多少ネタバレありの感想です

 

今年の春頃、次回雪組公演のタイトルが発表になった時は「蒼穹の昴って浅田次郎の小説だよね。確か中国の話じゃなかったっけ」くらいの知識しかなかったんですが、公演のあらすじに興味を惹かれ、珍しく観劇前に文庫本4冊の小説を読んでみたら、ページをめくる手を止められなくなるくらい非常に面白くて。と言いつつ、読んでる時の気分は「面白い。けど、誰がこれ宝塚でやろうって言いだしたんだ?*1」でした。だってさあ、主人公の春児(チュンル)など数名を除いた男性の登場人物の多くはおっさんと爺さんばっかりだし、女性に至ってはそこそこ出番があって名前の出てくる若い人は玲玲(リンリン)とミセス・チャンくらいで、一番存在感があるのは50~60代の西太后。しかも主人公が宦官ということもあり、清く正しく美しくが信条の宝塚の公演では到底口にできないような尾籠な単語や表現もばんばん出てくるし。それでもビジュアルやキャストが発表されるたびに「梁文秀(リァン・ウェンシウ)って水も滴るいい男とはあるけどこれ程までとは」「西太后役が一樹さんは予想外過ぎる。だがしかし楽しみ」などと反応しまくっており、新作でこんなに、具体的には東京公演を待ちきれず兵庫県の大劇場まで新幹線日帰り観劇をキメてしまう程に*2観劇前から期待値が高かったのは、はいからさん初演以来かも知れないです。

大劇場での観劇は前回がるろうに剣心だったので、約6年半ぶり。カフェテリアで美味しい公演限定メニューをいただいたり、「宝塚歌劇の殿堂*3」を覗いたりしつつ開演を待つ。大劇場は東京の専用劇場よりロビーが広く、入ってすぐの高い位置に主要キャスト陣のポートレートがあり「ああ、大劇場に来たなー」と感慨が。チケットぴあの貸切公演だったので、カエル?と黄色のクマっぽいマスコット2体の着ぐるみもいた。

前置きはこのくらいにして、やっと舞台本編の感想に入ります。

 

※以下、舞台及び原作小説のネタバレを多少含みます

 

【脚本・演出など】

大筋は原作通りに進み、特に後半はかなり駆け足ながらも飽きさせない展開で楽しめました。ただ文庫本4冊の内容をフィナーレ込みで2時間30分に纏めるとなると大幅なカットは避けられず、見られなくて残念だったシーンやここは聞きたかったなあ…という台詞はいくつかありました。大きな不満ではないものの多少首を傾げてしまう箇所もあり。西太后の御前での京劇の直前でめちゃくちゃタイミング良く黒牡丹(ヘイムータン)が登場した時は「ちょ……お師匠そこで出てくるの?*4」と突っ込みたくなったし、楊喜楨の暗殺*5はどうするのかと思ったら、どこからともなくいきなり飛んできた銃弾により即死したので、マスクの下で苦笑しかけてしまった。玲玲の、文秀への恋心はあるのかどうかよくわからないくらいまでカットされてたので、もうちょっと残して欲しかったかなあ。それでもストーリーが支離滅裂にはなっておらず、ひと続きの場面になってはいなくても、台詞の工夫や演出によって少しでも多く拾い上げようとしているのがわかりました。

脚本・演出を手掛けた原田諒さんの作品は、整然かつダイナミックな演出が毎回楽しみなんですが、特に中秋節日清戦争、馬家堡駅頭の場面など、人海戦術による群衆シーンは今作でも目を見張るものがありました。パンフ記載の場面ごとの出演者を見ると、女官の人が兵士だったりするなど、バイト率の高さが半端ない。群衆以外のシーンのひとつひとつも、立ち回りのある華麗な京劇などインパクト大の場面から街中の雑踏まで視覚的に美しく、冒頭から作品世界に一気に引き込まれました。阿片窟〜西太后暗殺未遂の流れはとても鮮やかで秀逸。パンフレットで原田さんが「この作品を舞台化するのが夢だった」という事を書かれており、意気込みと熱意を強く感じました。舞台セットや衣装もこれでもかというくらい豪華で壮麗。

気になっていた固有名詞の読み方は、どう変更されているのかを事前にざっくり把握していたので、戸惑いは少なかったです。歴史ものや中国の作家が手掛けた中華ファンタジーなど、「ガチ中華」な固有名詞は中国語の読みのままだと字幕なし・音だけだと区別がつきにくかったり、意味がわかりづらかったりするからね。原作既読なこともあって、人物名は「ウェンシウ」「チュンル」など中国の音にカタカナを当てたものでも特に問題なかったし、「せいたいごう」「りこうしょう」「しきんじょう」などは、耳慣れた音でむしろわかりやすかった。しいて言えば「頤和園(いわえん)」「翰林院(かんりんいん)」が一瞬わからなかったくらい。宦官の説明は必要最低限の表現でさらっとなされており、特に心配はしてなかったものの一安心でした。

 

【キャストについて】

小説を読んだときから合うと確信していた文秀、春児の二人を筆頭に、当て書きかと思うくらいに主要登場人物がことごとくハマっていました。

原作小説は春児が主役で、文秀は準主役の位置づけ、かつ中盤~後半は政情に翻弄されて勢いを失って行き、自暴自棄になって玲玲に結構ひどい事をしたりもするので、彼を主役にするとどうなるんだ?と少々懸念はありました。けど、そもそも文秀は学問をしっかり修めつつも民衆のことを真剣に憂いていて、試験中に隣の部屋にいた老人を労わったり、兄も母もいなくなりひとりになってしまった玲玲を養育する優しさもある人な訳で。舞台の上での文秀は、そういった長所が終始貫かれた人物として描かれていました。すごく宝塚的なアレンジではあるけど、自分は好もしく感じた。演じる彩風さんは、トップに就任してから本公演ではコミカル寄りな作品と役が続いていたのですが、今回は演目自体がシリアス、かつ苦悩しながらも目の前の困難に立ち向かい続ける役。ちょっと間違えると暗く地味になりかねないのに、苦難の多い展開でも、使命感が強く優しい面は台詞からも佇まいからも損なわれる事はなかったです。力強さもあり、一幕ラストで歌う「昴よ」では全身から発される迫力に息を飲み、目が離せなくなった。一幕終盤の赤の普段着や二幕の冒頭で着ている白の衣装はすらっとした長身に非常にお似合いで見惚れるし、彩風さんの代表作になるんじゃないかな。フィナーレの、扇を使った群舞のセンターで舞う姿、ラブラブ感強めのデュエットダンスにこれまた痺れた……。

舞台版では準主役の春児。かわいい。顔立ちだけの話じゃ決してなくて、B席からのオペラグラス越しにもわかるくらい目がキラッキラ。満面の笑顔のスチールやら、前半での文秀との仲良しツーショの舞台写真を見た時点でかわいい*6以外の語彙が消失してたけど、リアルで見た破壊力はそんなもんじゃなかったわ。生命力の塊みたいにパワフルかつ無邪気で醸し出す雰囲気そのものがかわいくて、応援したくなってしまう。そりゃ百発百中の占い師が嘘の予言をしてでも助けたくなるだろうし、富貴寺の人たちも応援するし、西太后も側近にするわ。宦官になる決意をするくだりではギラギラした眼差しに射抜かれるし、京劇の場面では、見るからに重くて動きにくそうな衣装で長物を操ったり回転をキメてたり、笑顔以外の表情も魅せてくれる。後半、大人になって立派な衣装を纏いながらも、死を選ぼうとしていた文秀の前で泣きじゃくり、生きてくれと懇願する姿に胸を打たれた。彩風さんの文秀同様、春児役は朝美さんの代表作になるのではないかと。二番手に就任されて以来、注目度が上がりっ放しのこの頃。

春児の妹で、文秀に養育されるうちに彼に恋心を抱くようになる玲玲役は、トップ娘役の朝月さん。一幕の大部分は娘一、というか娘役があまり着ないようなボロボロの衣装*7だったりするんだけど、その姿の舞台写真を見た時点で既に思い描いていた玲玲そのものだったし、冒頭で昴を見つめる目はキラキラと輝いていて、一幕の銀橋ソロでは「生きていく力」を強く感じた。あの兄の妹という説得力あり。衣装と髪型が貧民のそれであっても、登場した時からしっかりヒロインでした。ベテラン娘一の力量恐るべし。文秀に引き取られてからの中盤以降はちゃんと「きれいな小姐」で、ポスタービジュアルで着ている緑の旗袍は文句なしに素敵でした。欲を言えば脚本演出の項でも書いたように、もっと文秀への恋心の描写*8や譚嗣同とのやりとりを見たかったな。朝月さんははいからさんの吉次さんや夢介~のお銀さんみたいな大人の格好いい女性役もこなすのに、ショーでは淡い水色のワンピース+カチューシャの少女を演じたりもできる、稀有な方。本公演3作で退団なのは寂しいですが、娘一としての活躍を見ることが出来たのは嬉しい限りです。

順桂(シュンコイ)は、小説では2巻くらいまではいまいちつかみどころのない人、という印象だったので、どう演じられるのか気になっていましたが「現代人には理解しにくい、狂信的なまでの忠義の持ち主」という点が、和希さんの持ち味がフルに生かされた役作りにより、説得力のあるものになってました。三番手クラスの人であれば王逸や譚嗣同とかでもおかしくなさそうなのに、順桂役なのが最初は意外でしたが、舞台上の姿を見て納得。銀橋ソロの「我に力を」は、想像してたより穏やかな曲で背景も青空だしで意表を突かれたけど、その穏やかさが却って怖い気もする。パンフに「公演に懸ける思いを漢字一文字で表してください」というアンケートがあり、回答に思い切り笑ってしまった。いや確かにそうだしわかるけど!

譚嗣同(タンストン)は見た目から垢抜けなくて頼りなげだけど一途で心優しくて、話し方も含めた全てがぼんやりと想像していたイメージぴったりだった。袁世凱の説得を担う役が文秀に変更されていても、全く存在感が損なわれないくらいそのものでした。盲目の胡弓弾きで元大総監である安徳海の見た目、動作、話し方等々の老人らしさには驚愕するしかなかったし、温厚かつスマートな岡圭之介、精力的で豪奢な調度や衣装に負けない華のある光緒帝、オペラで覗いた時に美人過ぎて動揺したくらい色っぽくて謎めいたミセス・チャンなどもよくぞここまで合う人が揃ったなあ……というレベルだった。王逸(ワンイー)、黒牡丹、載沢(ツァイヅォ)はもっと押し出しが強くてもいいかなあと思ったけど、ビジュアルは大変良いです。中でも黒牡丹は非常に格好いい。陸裕(ロンユイ)の野々花さん、珍妃の音彩さんも限られた出番と台詞で妃としての立ち位置の違いをしっかり表現されていて、目を見張るものがあった。特に珍妃は、仕草と表情だけで「温厚かつ控え目な性格で、皇帝から最も愛されている妃」って事が見て取れた。まだ新公学年の方って末恐ろしい。

通常は1~2人くらいの出演なのに、今作では6人とかなり多い専科の方々はさすがの貫禄と上手さ。わけても、原作小説では陰の主役と言っても差し支えなさそうな西太后役の一樹さんは威厳が桁違いで、甥である皇帝への慈しみやごく近しい人たちに見せる親し気な面なども含め、どの場面も見事でした。同じく小説の登場人物の中では断トツで格好いい(※個人的意見)李鴻章の凪七さんも、立ち姿から何から非常にイケオジでございました。

 

【まとめっぽいもの】

登場人物の描き方や、ラブストーリーが薄い*9等の理由で原田作品は少々好き嫌いが分かれるけど、自分は結構好きだし、ODESSEYをライブビューイングで見てから雪組さんのへの期待値が爆上がりしてはいましたが、これ程までに凄いものを見られるとは思ってなかったよ……。観劇後数日はいつもより高い頻度で気を抜くと舞台上の光景や音楽が脳内再生される事態になっており……いや今もちょっとなってる。明日が大劇場の千秋楽、今月末からは東京公演が始まるということで、無事完走できることを心より願っております。

 

*1:劇作家の方だった模様

*2:1月の元禄バロックロック東京公演の観劇日がコロナ禍のせいで中止になった事を引きずってたからってのもある……

*3:公式サイトには『宝塚歌劇の発展に大きな貢献をした方々を紹介する施設』とある。歴史を伝える資料館のような所。上のフロアには現在本公演を上演している組の、直近の公演の衣装展示があり、テンションが爆上がりする。

*4:原作ではこの時点で既に故人

*5:贈り物の靴の中に仕込まれた蠍の毒にやられる…のは舞台上での再現は難しいよね多分

*6:まず最初に思ったのが「美しい」じゃなくて「かわいい」だったんである

*7:過去の雪組ヒロインだと星逢一夜の泉や壬生義士伝のしづも貧しかったけど、ここまでボロボロではなかったものな

*8:「これまでいいことなんてひとつもなかった」って台詞は、身分の違いや年齢差等により、好きな人に恋愛対象として見てもらえない切なさの表れでもあると思うので

*9:というか女性キャラクターの描写が薄い…のは否定しないが、全ツ御用達の大御所作家たちが描いてきたような古臭いステレオタイプの「愚かで弱い」女や、「あたしと仕事のどっちが大事なのぉ?!」な女たちに全く魅力を感じないので、薄いくらいの方が個人的には遥かにいいんである…

【観劇記録】3/30,5/3 舞台『刀剣乱舞』綺伝 いくさ世の徒花(刀ステ)

 

  • 思い切りネタバレありの感想です
  • ところどころ記憶違いなどあるかもです

 

結構長いこと感想はお休みしていたのですが、回数は減ったものの観劇はしっかり続けてます。刀ステ天伝、无伝もステアラで観劇しまして、あの特殊な劇場でしかできない演出の数々が非常にエキサイティングだっただけに、平日だと空席が目立つ状況が悲しかった。それだけに、今回満を持しての上演となった綺伝の明治座公演がほぼ満席だったのは喜ばしいです。

 

前回の「科白劇」の感想はこちら*1

raimu-sakura.hatenablog.com

 

オープニングから、サブタイトルに「綺」の字を頂くにふさわしいものだったことに(声は出さずに)感嘆してました。いつもの疾走感のあるものとはうって変わった、厳かかつ優雅な音楽とともに、刀剣男士と歴史上の人物が扇子を持って舞う様の美しいことといったら。刀ステのオープニングの中で一番好きかも。歌仙とガラシャ様が中心になるところは想定内(嘘です語彙ログアウト状態で見惚れてました)として、長義*2がひとりで中心に立って舞う振りがあってちょっと動揺してましたありがとうございます。

本編はというと、

雅と美と物理的な力強さは全て同時に成立しうるんだね、という事を歌仙を座長に据えた今回の座組で思い知らされましたです。明治座観劇後のツイートより)

今までの刀ステや科白劇でもその片鱗は見えていたけれど、綺伝で見せた姿はそれらを遥かに上回ってた。あの本丸の歌仙*3、とりわけクライマックス付近の殺陣の雅さと力強さには、魅了される以外の選択肢が存在しなかった。持ち主の妻であるガラシャが、見た目の全く異なる刀の付喪神に、文化人としても名高い夫の姿を見出したのも納得でした。そのガラシャ様は美しさはそのままに、心なしか科白劇の時より更に凛としたたたずまいで、力強さを増しているように感じられた。後半の薙刀の殺陣の形がとても綺麗で、どの瞬間を切り取っても絵になってましたね。无伝の高台院様も然りですが、元宝塚の男役の方は美しさと気品に加えて力強さをも兼ね備えた女性の役がハマるよなあ……OGの方々の活躍に退団後も魅せられ続けています。

物語の大筋は科白劇と同じなので、刀剣男士の印象もだいたい同じかと思ったんだけど、二年弱という時間の経過か、いわゆる「個体差」なのか、細かいところでちょいちょい変化はありました。

山姥切長義は高慢かつそれに見合う実力の伴った超エリート*4……なんだけど聚楽第の監査官だったことはバレてるよねおそらく。原作ゲームの声優さんが「嫌味な奴ととられないように、わかりやすく隙を詰め込んで演じた」と言う趣旨の話をされていたことを最近知ったのですが、刀ステでもしっかりそれが踏まえられてて、にやにやしてしまう。慈伝や科白劇はどうだったかよく覚えていないんだけど、本歌なだけあって殺陣の形が写しのまんばちゃんと似てる? 納刀時に一回転させるところもあったし。一度は負けを認めざるを得なかった相手の気配を漂わせた敵(偽物くんの偽物くん)なんて、存在自体が許せないのだろう。ステ長義はどのシーンをとってもやはり理想的な長義でした。

にっかり青江は普段はどこか色っぽさのあるおっとりとした年長刀なのに、戦闘時は鋭い刀と化していて、そのギャップが大変良いです。ミュの人ならざる者*5っぽい青江とはアプローチが全然異なるけれども、こちらも同じ刀だと無理なく思える役作りでした(この辺は科白劇の感想にも書いてたね)。

放置プレイとか時々ちょっと変なこと言うけど、ノーブルで華やかで機転がきいて、それでいてどこか可愛らしい亀甲貞宗、SPECTER再演の臥萬里なんだよなあ……予め把握してなかったら多分わかんなくて、後からパンフ等を見て叫ぶパターンだったんじゃなかろうか。科白劇の時と比べると、軽快さよりも落ち着きを感じました。ゲーム本編や花丸本丸ではコミカルさの方が印象に残ってたので、異なる一面を見られて嬉しいです。

獅子王。初日の感想をちらっとTwitter検索してみたら何かあるっぽかったので期待して行ったら鵺!確かに真剣必殺の立ち絵では口開けてるけど、動き回って一緒に戦うのか鵺……!!科白劇の感想を読み返したら「年長の刀としての落ち着きが感じられた」とあり、綺伝の獅子王にもしっかりそれは存在しつつ、ムードメーカー的というか元気で賑やかな印象がより強かった。亀甲さん同様、別の本丸ゆえの個体差かな。小烏丸の真似が上手過ぎ。

歌って踊って「すていじ」に立つ日を夢見る篭手切江は、真剣必殺の殺陣がかっこいい。初見の明治座では座席の関係で見えづらかったんですが、二回目の新歌舞伎座ではストリートダンスを思わせる華麗なアクションをしっかり目に焼き付けてきました。刀ステにおける脇差や短刀の殺陣は、全体にアクロバティックなものが多くて楽しいです。

立ち絵ではどこを見ているのかわからない、幽玄な妖しさの古今伝授の太刀と、「姉上」と逃避行を繰り広げ、どこか危ういものを持った地蔵行平は、佇まいといい台詞回しといい、イメージドストライクなんですよね。どちらも西洋のフレグランスよりお香の匂いがしっくりきそうな*6

 

ここまでは良かったことについて書き倒してきましたが、気になったことも。

明治座の座席。ファンサイト先行のA席だったんですが、3階席の最前列で手すりが目線にかかってしまい、見切れ席では?というレベルで舞台の一番低い部分が隠れてしまっていました(当方は身長159センチで女性の平均の範囲かと)。事前に見切れ席と告知された上でなら割り切れるけど、多少見づらいってレベルではなかったよ……。Webアンケートにしっかり書いておいた。新歌舞伎座はサイドシートで少々見えない部分はあったけど最初からサイドシートとして売られてたし、その代わり花道は綺麗に見えて、座席に座布団が置いてあって目線が多少高くなったので、それほどストレスは感じませんでした。

作品については、歴史上の登場人物、ちょっと多過ぎない? 細川ガラシャと忠興夫婦、夫婦とキリシタン大名たちの両方と関わりのある高山右近と、これまでの作品にも登場している黒田孝高は必須として、その他のキリシタン大名が4人、更に綺伝では天正遣欧少年使節まで加わると流石に誰が誰だかわからなくなりかけたし、出番と台詞が増えた分*7、全体がやや冗長になってしまっていたのは否めない。无伝の真田十勇士もそのパターンで、各々のキャラクターが立っていて魅力的でも、この人たち決して嫌いじゃないんだがそれより本筋を先に進めてくれ……と思っちゃったんだよな*8。それと、映像も多用し過ぎかな。背景や演出上の効果はいいんだけど、生身の人間が舞台上で演じるか、いっそモノローグでもよかったのではという箇所に至るまで、出演俳優の演じた映像を使っていた場面がいくつかあり、そこだけ安っぽく見えて残念でした。好みの問題かも知れないけど。

良かった部分とそうでなかった部分を両方述べましたが、全体の満足度は高いです。科白劇と大筋は同じ、と先述しましたが、大人数対少数の殺陣や真剣必殺など、この座組で初めて「完全な形のもの」を見ることの叶ったシーンもあり、夫婦の愛憎の顛末が歌仙のモノローグで語られる終盤では泣きそうになった。明治座でスタオベに加わろうとしたら、危ないからと係の人に止められたのが残念だったくらい。新歌舞伎座では堂々と1階席の人たちと一緒に立ち上がって拍手できたので、その時の無念は回収できた。そして、新歌舞伎座で観劇した5月3日はちょうど刀ステ6周年にあたる日でした。把握していなかったので当日知って驚いた。終演後に歌仙役の和田さんから6周年の挨拶*9もあり、刀ステと知り合って舞台を積極的に見るようになってからそれだけ経ったんだなあ……と、感慨にひたっておりました。

 

(6/2 追記)

大千秋楽もライブビューイングで観ました。刀ステの千秋楽は虚伝初演からずっとライビュもしくは配信で見ていて、今のところ皆勤です。映像だと表情が細かく見えるのが良いね。オープニングでソロで舞うところの長義、最後ににやっと笑ってたのか心拍数やべえとか、地蔵ちゃん科白劇以上に可愛すぎやしないかガラシャ様が姉上って呼ばせたくなったのも納得…と心で頷いたりとか、青江ちゃんの真剣必殺のキメの顔が実に艶っぽくてすてきとか、クライマックスの歌仙とガラシャの戦いのシーンも大画面だとまた違った迫力で瞬きも忘れて見入ってしまったり。エンディングではあー綺伝とうとう終わっちゃうのか寂しいな……と早くもロスに突入してたんですが、曲の最後の方で刀剣男士たちと白い衣装の歴史上の人物たちが眩い光の中に並んでるのを見た時、美しさと、ここまで来られたんだな、という感慨で涙が込み上げそうになりました。挨拶する役者さんたちは清々しい顔をされていたし、特に座長の和田さんは歌を詠まれた後*10、一瞬脱力したような顔をされていて、出演者も舞台には立たないスタッフも、おそらく初日(だけじゃなく稽古など準備期間も)から千秋楽まで、観客には想像もつかないようなプレッシャーと戦って来られたのだろうな、と。

次回以降のあれこれについては、取り敢えずびっくりした。七海さんが歌仙というだけでも幻覚じゃないよね?って我が目を疑ったのに、大倶利伽羅役として彩凪翔さんの名前を見た時には映画館で声出そうになったよ……。自分は宝塚ファンではあるけれど刀ステのファンでもあるので、既に退団されているとは言え、刀ステに元宝塚の男役さんが二人も刀剣男士として出演されるという事は、まだ戸惑いの方が大きいです。女性の役者さんが刀剣男士を演じること自体に異論はないし、更に元宝塚の男役のお二人なら不安要素は少ないけど、どうして刀ステの中でそれをやるの?という(彩凪さんは退団後の活動は把握してないけど宝塚時代結構好きでした)。既にある本丸とは全く別の、新しい本丸の物語を宝塚歌劇団の公演でやるって言われたなら特に抵抗なく受け入れられたと思う*11けど、刀ステとなると今までとあまりに方向性が違い過ぎるので。OGの誰々に出て欲しいなど盛り上がる事が悪いとはまっっったく思いませんが、ヅカファンかつ刀ステのファンでも純粋に喜んでる人間ばかりではないんだよ……。しかも出陣先が源氏物語の世界ってなんなんだ??戸惑いまくりつつも改めてビジュアルを眺めると、禺伝の歌仙さんも伽羅ちゃんも非常に美麗で見とれてしまったし、宝塚ファンではなさそうな人が今回の試みについて好意的にとらえておられると、結構嬉しかったりもします。

今回の件が賛否両論というか、かなり強めの批判も出るだろう事を制作サイドが予想できなかったはずはないので、思い切った方向に打って出ざるを得ない何かがあるんだろうな、以上の事は言えないです。けど、脚本の末満さんは原作のあるゲームを舞台化する事だけでなく、歴史を題材としたフィクションを描くという面においても信頼のおける劇作家なのは確かだし、自分は顔も名前も把握していない人がほとんどだけど、他のスタッフの方々もそうだと思っています。刀剣男士を演じる七海さん、彩凪さんも、反対意見に晒されるのはわかっていただろうし、いい加減な気持ちで引き受けた訳では決してないでしょう。と言うか、彩凪さんを知らない方は6月末にCS放送タカラヅカスカイステージを無料で見られる期間があるので、るろうに剣心の武田観柳の悪役ゲス男っぷりを是非とも見て欲しい……そして個人的にもっとオススメしたいのはルパン3世石川五エ門役だ……。

ごちゃごちゃと書いてしまいましたが、一体どんな内容なのかまだ何もわからないけれど、わからないうちは憶測で批判する事は避けたい、というのが現在の気持ちです。

 

*1:ってこの当時も大千秋楽の日に感想アップしてたんだな……

*2:うちの本丸に顕現して以来の推し刀剣男士ですもので……

*3:本編開始時にはおそらくとっくにカンストしてる

*4:「右の頬を打たれたら…」のくだりが非常に好き

*5:刀だからそりゃそうなんだけど、幽霊とか妖に近い存在のような雰囲気がある

*6:と言いつつ古今さんのアロマキャンドル買った

*7:科白劇でも多いなあとは思ったけどさほど気にはならなかった

*8:一方でミュのむすはじみたいに、歴史上の人物を華やかかつ濃厚に描き過ぎて本来主役なはずの刀剣男士を完全に食っちゃうみたいな事も起こるから、バランスが難しいんだろう

*9:手で何かのマークを作っていたのは「6」の字を表していたんですね

*10:科白劇の千秋楽で、歌を詠むのは綺伝の時まで取っておきたい、という趣旨のことを仰ってた

*11:話は逸れますが「宝塚は絶対恋愛要素を入れなきゃいけない」なんてことは決してないです……。確かに主人公とヒロインの間に恋が芽生えない作品は少数だけど、珍しいと言うほどでもないです。例えばルパン3世やThunderbolt Fantasyは主人公は原作のままで、ヒロイン格の登場人物と主人公は恋愛しません。前者は全体的に恋愛要素はほぼなかったし、後者は脇キャラの恋愛エピソードはあるけどかなり薄いしおそらく原作に沿ったものだし。第一、禺伝は「宝塚OGの二人が刀剣男士を演じる」のであって宝塚の公演じゃないし!!

【観劇記録】2020年9〜12月のまとめ+α

 

すごく久しぶりの更新になってしまいました。あれやこれやで劇場に足を運ぶ回数は減ったものの、ライブ配信も活用しつつ月1〜2回くらいのペースで観劇しています。昨年5月に出会い、今も沼真っ只中の魔道祖師は、アニメ字幕版をWOWOW*1で全話視聴&先日地上波でオンエア開始された吹替版1話は1日でWOWOWと東京MXとBS11の3回リアタイし、実写ドラマ版の陳情令も前回の更新後に50話完走しました。初中華ドラマでしたが最初から最後まで全くダレることなく、非常に面白かったです。Blu-rayBOX全3巻もしっかり手元にあったりする。ラジオドラマは二期制作中の報、そして一日千秋ってこういうことなのかと待ちに待った原作小説の日本語版は、今年の春に発売するとの告知がありました! わーい!!

 

以下、9月以降に観た舞台の感想です。配信も含め、だいたい見た順に。

※多少のネタバレあり

 

宝塚星組『眩耀(げんよう)の谷 ~舞い降りた新星~』『Ray -星の光線-』

8ヶ月ぶりの東京宝塚劇場星組からでした。劇場に入った時、来られたことが嬉しくてマスクの下で表情筋が緩みっぱなしだった。先に配信で見てたのでストーリーはわかってたんですが、眩耀〜は幕開き直後のダンスのシーンから画面越しに見るそれとは桁違いに美しくて、早くも泣きそうになってました。配信の画面だと舞台の奥行きとか、セットや照明のキラキラ具合が全然わかんなかった。生で観ることにして良かった。お話は初見ではちょっと長く感じられてしまったんだけど、展開を知ってから見ると、クライマックスの主人公達のシーンで涙が止まらなくなりました。宝塚で演じられる「虐げられた民達の抵抗を描く物語」で、主人公と仲間たちがああいう選択をするのは珍しいけど、私はとても好きです。どうかみんな、頑張って生き抜くんだよおお!と心で叫んでました。ヒロインは自分の兄や同胞を殺した将軍に愛人にされた上、子どもまで産まされるという悲惨な目に遭ってるんだけど、当事者の間にどんな感情があったのかは一切描かれずに「彼女はそういう事をされた」と、侍女の口から一言語られただけで、主人公も以降触れなかったのも良かった*2。ラストに「そうだったんだ!」と驚く仕掛けもあり、苦しみを乗り越えた主人公達の姿が眩しかった。新トップの礼真琴さんは芝居、歌、ダンスとも安定の実力に加えてフレッシュなパワーが感じられ、2019年冬のロクモで私の心臓を見事に撃ち抜いた新娘役トップの舞空瞳さんは、とてつもなく可愛くてダンスのキレが抜群! お気に入りの瀬央さんと有沙さんもそれぞれの持ち味を発揮できる素敵なお役でした(嬉)

 

THE MUSICAL CONCERT at IMPERIAL THEATRE(帝劇コン)

ProgramAを配信で見ました。朝夏さんはいつかCHICAGOに出て欲しい。ロキシーでもヴェルマでも。新妻さんの「命をあげよう」「100万のキャンドル」で泣きそうになる。城田・古川組の闇広、劇場で観たのはもう5年前なんだよなあ。今や古川さんもトート閣下だし。井上トートも一度観てみたい。そして花總さんの「秘めた想い(レディ・ベス)」でぼろぼろに泣く。やっぱりミュージカル好きだー!

 

音楽朗読劇『黑世界 ~リリーの永遠記憶探訪記、或いは、終わりなき繭期にまつわる寥々たる考察について~』

雨下の章は劇場、日和の章は配信にて。円盤で見たLILIUMのあのリリーが確かに舞台上にいました。リアルで見てもすごく華奢で、裏腹に眼差しは鋭かった。朗読劇と銘打たれてはいるものの、役者さんたちは動きまくるし歌もたくさんありました。歌手やレミゼ出演経験のあるミュージカル俳優が複数名参加されており、歌のクオリティがガチ。雨下の松岡さん、日和の上原さんの迫力は特に凄かった。好きだったのは、日和のラッカとノクとの話(「家族ごっこ」「血と記憶」「百年の孤独」)。ラッカ役の朴璐美さんの、幼い少女、大人の女性、年老いてからの演じ分けが見事でした。お笑い芸人の方が脚本を担当していた3話「静かな村の賑やかなふたり」もユーモラスかつ楽しいお話で、良い意味で予想を大きく裏切られました。雨下では5話「馬車の日」。仕掛けが秀逸で、ミステリ作家さんの脚本と知って納得でした。それと3話「求めろ、捧げろ、待っていろ」の強烈なインパクトよ……。今回中止になってしまったキルバーンも、いつか上演されるといいな。

 

ミュージカル『ローマの休日

帝国劇場にて。配信のクオリティも満足のいく物だったけど、劇場に行けるのはやはり嬉しい。朝夏さんのアン王女は美しく気品があって、その上すんごく可愛らしかった。新聞記者・ジョー役は加藤さんで、やさぐれつつも王女に向ける視線は優しくてめちゃくちゃハマり役だったし、アーヴィングの太田さんは軽やかかつ華やかで、登場すると周りが明るくなるようでした。お話自体は映画とほぼ同じ。歌も演出も特別派手ではないし、いわゆるハッピーエンドとは少し違うのにとても爽やかで、見終わった後は涙をふきつつも自然と笑顔になってました。

 

宝塚花組はいからさんが通る

※初演の感想はこちら

初演の頃から大好きで、柚香光さんがトップに就任したら本公演で再演して欲しいと願ってました。まさかお披露目でやるとは思わなかったけど! 大劇場に遠征する予定が公演自体が初日すら迎えられず、このままお蔵入りになる事だけはどうかありませんように……と祈る心地でした。七月にやっと幕が開き、二日目の公演をライブ配信で見た時、テーマソングのイントロが始まった瞬間に涙腺が決壊した。テーマソング2番で初演では蘭丸、鬼島が一人ずつ順に出てきた所に、環と高屋敷がそれぞれ加わったのも胸熱でした。少尉は外見の麗しさはもちろん、乙女の夢と浪漫な存在そのものが初演より更に磨きがかかって舞台上に顕現していたし、紅緒さんはパワフルさとキュートさが格段にアップしていたし、鬼島は存在感を増してかっこいいし、気弱でたおやかな蘭丸は男子っぽさがより際立ち……と、続投組が皆それぞれに成長を遂げていて感慨深かった。二代目となった編集長は初演とは異なるアプローチで、よりニヒルというか、パイプを咥える姿がとても似合っていた。環はビジュアルこそ原作そのものではないけれど、歌唱力抜群かつ力強いモダンガールで、見ていて気持ち良かった。二幕冒頭は環をセンターにモダンガール(withしれっといる蘭丸)たちが歌い踊る、かっこよくて痺れる場面なんだけど、他の、特に男性の劇作家だったらおそらくこうはしなかった*3と思うんだよね。天河の感想にも書いたように、女性の登場人物を大切に描いてくれる座付き作家さんの存在はとても嬉しい。出番の増えた高屋敷はめっちゃイケメンだし、吉次さんは凛とした大人の女性で素敵でした。その後、10月に東京公演のAパターンを観劇しまして、久しぶりの1階S席で観たはいからさん、特に少尉と紅緒さんはまさに少女漫画そのもの。ときめきをありがとう。話知ってるのに一幕最後とオーラスでは思わず涙が(近頃とても涙脆くなっております)。トップ娘役・華優希さんのお芝居がとても好きなので、次回の本公演で退団してしまうのがすごく寂しいです……。そうそう、自分が劇場で観た回は、公演前半にだけ出演するメンバーの千秋楽だったので、フィナーレの後に柚香さんから挨拶があったんでした。階段上にいるメンバーたちが見えるように、大羽根を背負ったまま膝をついたり腰をかがめたりするトップさんの姿は、多分初めて見た気がします。

 

宝塚月組 『WELCOME TO TAKARAZUKA -雪と月と花と-』『ピガール狂騒曲』

チョンパで始まる和物ショー、ド派手でいいね! 今回は仏像が出てこなくてほっとした。 特に「月」の場面が幻想的で美しかった。ピガールはコミカルかつお話がきれいにまとまっていて、多少の突っ込みどころ(元ネタの作品がそうなってるのでしょうがない)も気にならないくらい面白かったです。衣装デザインがかなり好みだった*4。男装の女性という役どころの珠城さんは爽やかで上品な青年ぶり、かつ柔和な雰囲気も漂わせていて、ガブリエルが一目惚れするのも無理ないよね。お相手役の月城さんはヒゲの似合う紳士で、途中の超ロングトーンに驚いた。その時のジャック(珠城さん演じるジャンヌの男装時の名前)のクールな反応も含めて拍手ものでした。んで鳳月さん、妻にゴーストライターさせてるような奴なのに、あんなイケおじなんて狡い。他にも暁さんの華麗なダンス、風間さん、千海さん、光月さんらのコミカルなお芝居等々、見どころ満載でした。

 

以上、配信含めても4ヶ月で7回*5と、去年に比べてだいぶ減ってしまった感はあるけれど、どれも観ることができて良かったと心から思えた作品です。それと舞台ではないんですが、中華アニメ映画の「羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ)」は2回映画館で見ました。アニメのクオリティがとても高くてシャオヘイがとにかくかわいいし、ムゲン、フーシー等々の登場人物(と妖精)もそれぞれ非常に良いのですが、2021年1月現在、円盤が出るかどうか未定なので、映画館でかかってるうちに見ることを強くお勧めします。冒頭に書いた魔道祖師アニメ吹替版も、地上波の他、複数の配信サイトで見られるので是非!!

 

今年は宙組のアナスタシアが観劇初め。昨年シアターオーブで男女キャスト版を観た時以上に優しく美しいお話であることが強く感じられ、観終わった後は幸せな余韻にしみじみと浸っていました。苦労の多い半生を送りながらも純粋な心を失わない真風ディミトリと、生命力にあふれ、聡明さと気品も備えた星風アーニャ、どちらも予想以上に素晴らしかった。いろいろ拗らせまくってる芹香グレブ*6、食えないところがありつつ陽気なおじさんな桜木ヴラドは、どちらも少し前に比べると役の幅が更に広がっており、ますます今後が楽しみ。ダンスシーンが見所の和希リリーは抜群に有能そうかつ健康的で、どこか気だるく色っぽいマダムだった浅海さんとはまた違った魅せ方でした。マリア皇太后は、2017年の神々の土地に続いて組長の寿さんが同じ役を演じており、心を閉ざした頑なな老貴婦人から、孫娘を慈しむ祖母への変化が鮮やかでした。

 

今年もまた、いろいろな事に気をつけながら観劇を楽しんでいきたいです。いつになるかはわからないけど、また客席降りやコール&レスポンスを心置きなく楽しめるようになる日を心待ちにしつつ。

 

*1:このために加入。宝塚や2.5次元舞台、新感線、タイBLドラマ、映画やコンサート等々も見られるのでQOLが上がってます。

*2:彼女と将軍の愛憎劇を見たかった、という意見もあるけど、自分はそんなの見たくない。もちろん将軍役の愛月さんは冷徹かつ堂々とした風格で好演でした。

*3:編集長と冗談社の面々がセンターで、その後ろと脇で環を含めたモボ・モガが踊る、みたいなのじゃないかと

*4:特に美園さんがポスター画で着てるストライプのドレス!

*5:はいからさん千秋楽の配信を入れたら8回

*6:1幕のアドリブはヒゲダンスだった

【映像作品感想】陳情令32話まで見ました

 

  • ネタバレちょいちょいあります
  • 記憶違いなど多少あるかも

 

前回までの経緯はこちら

 

魔道祖師のアニメ、ラジオドラマに続き実写ドラマ版『陳情令』を楽天TVで週3〜4話くらいのペースで視聴中です。今は32話まで来ました。大河ドラマどころかワンクールのアニメすら最近は完走できないのに、気づいたら折り返してたよ。むしろあと半分を切ったのが寂しい……。

 

華流以前に海外ドラマ自体ほとんど見ないので、いろいろ新鮮です。まずびっくりしてるのが背景と美術。山奥深くの雲深不知処はこれこそ深山幽谷っていうかリアル水墨画だし、山や川とかもずっと日本で暮らしてる身からすると訳わかんない広さで、雄大過ぎて呆気にとられまくってしまう。藍家の蔵書閣や蓮花塢の江家のお屋敷とか、出てくる建物もことごとく広大な上に内装含めて品良く美麗で、どんだけお金掛かってるんだろう*1

男性陣の髪型は老いも若きも、幼い子どもまで皆、肩〜腰くらいまである長髪にデコ全開で一部を結い上げるスタイル。最初は面食らったものの、話が進めば顔と服装で見分けはつくのですぐ慣れました。仙門の人たちの裾も袖もひらひらと長い衣装は、ひらひら好きとしてはたまらないです、ふふふ。首から下は足首まできっちり布に覆われてるから暑そうだよね。どっかのシーンのロケで腰から下はハーパンだったことがあるというのも頷ける。それにしてもメインのキャスト陣、江澄とか薛洋とか主役二人以外もことごとく麗しい……女優さんも温情とか意味わかんないくらい美人だし師姉も清楚な美しさだし、大陸は凄い。

 

アニメと同じく、2話までが現在の話で、2話のラストから32話はずっと過去の話です。アニメは7話まで見ていて、ラジオドラマも並行して聴いてますが、ラジオドラマ版は座学以降は13年後(ドラマでの16年後)に戻って話が進むので、過去編はほぼ初見でした。陳情令は陰鉄とかのオリジナル要素も多く、女性、主に師姉と温情の登場シーンが増えてる。と言っても、主役二人には他の誰かが恋愛的な意味で絡むとかは全くない*2ので、こちらとしても安心というか、女性陣の出番が多いのは良かった。

って、私さっきから魏嬰の姉弟子で江澄の実姉、江厭離のことを普通に「師姉」と表記してますが、気がついたらツイッターで呟く時等々、自分の中での呼び名が自然とそうなってしまった。あと魏無羨と藍忘機も、それぞれ魏嬰に藍湛と、互いを呼ぶときの本名で呼んでたりする……ので、この記事内では以降その表記でいきます*3

3〜9話くらいまでは流血シーンはそんなにないんですが、薛洋が魏嬰たちの前に出てきたあたりから血生臭くなってきて、11話くらいからは魏嬰を筆頭にほぼ毎回誰かしら血を吐いて負傷して、モブが大量にお亡くなりになり始めた……。それでも屠戮玄武のあたりまではわくわくしながら見られてたんですが、15〜16話がショックで結構ダメージ受けてました……なんだよあれ辛過ぎる。で、その後は温氏の討伐のあたりで持ち直し、不器用両片想いカップルに表情筋を緩めたりたりしつつも、窮奇道ら辺でまた落とされて、阿苑の存在に心和ませつつ師姉の結婚話で良かったねえってなってたところでの31話。見終わってからガチで涙目でうわぁぁぁぁあああ!って叫んだから。LILIUMの円盤見た時以来だよこんなんあんまりだ……。で、32話でトドメをさされて今に至ります。ちょっと上向いたと思ったら思いっきり地に叩きつけられる、を繰り返す仕様。過去編が地獄とは聞いてたが、こんなに壮絶だったなんて。

 

出てくる人たち、だいたい皆辛いことにはなってるんだけど、特に際立ってるのが魏嬰で、最初の頃は笑顔が大変可愛くて良いなあとにやけていたんだけど、どんな苦境に追い込まれてもふとした時に覗く笑顔を見てると次第にしんどくなってくる。その場その場で良かれと思った行動を、時に衝動的に取った結果、過去編の後半はことごとくが悪い方向に向かってしまうんだもんな。正義感や義侠心から来るものだけではなく、軽率と言わざるを得ないようなものも中にはあるけど、人間が常にプラスになる行動だけを取れるなんてことはあり得ない訳で。あの時魏嬰がこうしてなかったらあの人は酷いことになってたし、束の間であっても運命を共にしてくれた人がいた事はたとえ結果は同じでも彼らにとって救いだっただろう。けど、最終的にこうなっちゃうなんてあまりに無情過ぎるよ……と、打ちひしがれっぱなしの現状です。

で、「もう一人の主役」藍湛ですけど。邪推するまでもなくとっても魏嬰の事好きだなーこの人、というシーンが随所で不意打ちのように投下されて転げ回る羽目になってます。取りつく島もなかったのはごく初期だけで、親とパートナーと子ども以外には触らせないはずの抹額(頭に巻いてるアレ)にはあっさり触らせてるし、二人で旅に出ることになったり温晁に目をつけられて嫌がらせされまくった挙句に二人きりで七日間、魔物と一緒に洞窟に閉じ込められたりしてるうちに親しくなるのはまあわかるとして、その時点で既に二人の思い出を即興で歌にして口ずさめるって相当じゃなかろうか。それだけでもかなりのものだけど、江澄との再会の抱擁を目撃して「えっちょっと何してんのお前?」みたいな顔をしたり、自らを顧みず孤立を深めていく魏嬰を案じる余り「自分のところに連れて帰って、隠したい」と宣ったりとか、ブロマンスってなんでしたっけ?*4  おそらく友達とか全然いなかったところにいきなり入り込んできてしっちゃかめっちゃかにかき乱されて、けど(綿綿の一件からもわかるように)引っかき回した当人にはそこまでの影響を与えた自覚は全くなしって、罪作りだなあ魏嬰ちゃん(苦笑)。いろいろ規制があるらしい中、最大限に原作のその辺りの描写を盛り込み、ある時は形を変えてニュアンスを残してくれた製作陣に敬意と感謝を送りたい。

二人に次いで登場の多い江澄は、実の兄弟同然の兄弟子である魏嬰のことを人として好きなのは確かだろうけど、同時に強いコンプレックスも抱いており、更に宗主の一人息子(後に宗主)という立場ではできない事がたくさんあるから、自由気ままに動ける魏嬰が羨ましくもあるんだろうという複雑な感情を発しまくってて、BL的なそれとは違うんだけど関係性への血の滾りがこちらもまた凄いんですよ、ええ……。魏嬰とのどこかコミカルなやり取りも微笑ましい。過去編中盤〜後半は多分藍湛よりも江家の姉弟や温家の姉弟とのエピソードが多いから余計にね。てか、あんなに慈愛にあふれたお姉さんがいたらそりゃ弟弟子(と弟も少々そんな感じだし)もシスコンになるわ。

周りの人達も、しっかりゲスい悪役として描かれてるのは温晁と愛人の王霊嬌、あと温若寒くらいで、他の人たちは立場上そうするしかなかったり、やらかした事は酷いが心情はわからなくもない(もしくはおそらくそういう行動に走らせた何かがあった事が察せられる)とかで、いろいろな人が言及してるように、誰一人として完璧な人がいない。魏嬰と藍湛、江澄などはもちろんのこと、藍湛の兄で人格者である澤蕪君や、義侠心の強い聶明玦も金家の非人道的な振る舞いには眉を潜めるしかできなかったりするし、江家姉弟の母で子どもたちを厳しく育てつつ深く愛している虞夫人も、養い子に対しては最後まで苛烈な態度を崩さない。けど、彼らは決して否定的には描かれてなくて、強さも弱さも併せ持った人間として物語世界に存在してる。でもって、お話そのものが凄惨なシーンや容赦なく悲しい展開も含みつつめちゃくちゃに面白くて、こんなんハマらずにいられようか……。

 

ラジオドラマ版や字幕アニメ版、あとついに手を出してしまった原作本(繁体字)(固有名詞以外ほぼ読めない)についても書きたかったんですが、思いの外長くなったのでそちらは次回にします。アニメの吹き替え版は来年から地上波で始まるし、グッズの取り扱いがステラワースやアニメイトでも始まって、供給が増えてきたのは嬉しい限り。あとは原作小説の日本語版を心よりお待ち申し上げております(結局はそこに行き着く)。 

 

陳情令 Blu-ray BOX1【初回限定版】

陳情令 Blu-ray BOX1【初回限定版】

  • 発売日: 2020/08/05
  • メディア: Blu-ray
 

配信は購入でなくレンタルにしてたので、円盤購入しました(というか欲しくなるのを見越してレンタルにした部分はある)。ブックレットの写真が綺麗!特典スマホリングは魏嬰ウサギが来てくれました。メイキングとシーン吹き替えは未見なのでそのうち見たい……。

 

*1:不夜天はいかにもな悪の秘密結社過ぎて別の意味でえええ?!ってなったけど(笑)

*2:江澄→温情の片想いはドラマのオリジナル要素かな? そこは自分は面白いと思った

*3:読み方は陳情令とアニメ版では中国語、ラジオドラマでは日本語に脳内で自動変換されてる

*4:頭の「ラ」が抜けてないですかね……?

【観劇記録】8/6 科白劇 舞台『刀剣乱舞/灯』綺伝 いくさ世の徒花 改変 いくさ世の徒花の記憶(刀ステ)

 

  • 思い切りネタバレありの感想です
  • ところどころ記憶違いなどあるかもです

 

4ヶ月半ぶりのリアル観劇は刀ステからでした。今もいろいろな公演が中止になったりしている中、劇場で観劇することが叶ったのはすごく嬉しかった。

 

科白劇と聞いた時に朗読劇みたいなものを想像していたら、殺陣もあるとか? 一体どんな風になるんだろうとわくわくしていたら、役者同士距離を保ち、密集を避けながらも動く動く。殺陣も役者の動きと映像の合わせ技に加えて講談師*1の語りで臨場感たっぷりに表現されて、全く飽きることなく最後まで見入ってしまった。もちろん、暗り通路や熊本城内などゲーム本編の内容もしっかり再現されていました。改めて演出のすえみっさん凄い……。講談は初めて聞いたんだけど、あんなにスピード感と迫力のあるものなんだね。本編は「別の本丸の特命調査・慶長熊本の記録を、刀ステ本丸のメンバーが読み解く」という形式になっており、本来の『綺伝』とは異なる話であることが明確に示されていました。ほぼ同じ流れを辿ってはいるけれど、細部(?)が異なっているらしい。

て言うかですね。

長義って、超高慢かつスーパーエリートなんですね、という事をまざまざと見せつけられましたです……。慈伝で布バサされまくったり偽物くん騒ぎがあったりで忘れてかけてたけど『(略)美しいが高慢。 より正確に言えば自分に自信があり、他に臆する事がない。(公式Twitter)』なんだよな。放棄された世界のキリシタン大名の頬をいきなり張って「右の頬を打たれたら〜」とか言い放ってみたり、対峙しつつ威圧感バリバリに醸し出しながら脚組んでみたり*2、それでもって歴史や文学の教養もさらっと示したり、殺陣にもどこか余裕が漂うという……生まれた時から英才教育を受けて、それに伴う実力を備えたいいとこの御曹司のようだった。コミカルなところも捨てがたいが、ある意味俺様な面がクローズアップされた姿も実に良い。あと台詞がとても聞き取りやすかった。

歌仙は流石の安定感。今回の出陣メンバーの中で一番刀ステへの出演が多い事もあり、出て来ると舞台が程よく引き締まる感じが頼もしいです。なんというか安心感がある。歌仙もまた、義伝では少々ヘタれてたけど着実に成長を見せていて、精鋭揃いの第三部隊の隊長を任されるのも納得でした。殺陣も力強くスピードがあり、見応え十分。特に終盤……!

この二振り以外は初登場の刀。

にっかり青江は、衣装自体は割とストイックなのにそこはかとない色気が感じられた。刀ミュの、幽霊の逸話を思わせる掴み所のない雰囲気とはまた異なったアプローチだね。

亀甲貞宗は可愛らしくてポップで華やか。原作通り言動は多少アレなんだけどそれすらクスッと笑えてしまうかわいさと軽快さがありました。

獅子王はムードメーカー。陽気ではあるんだけど、むっちゃんの明るさとはちょっと異なり、年長の刀としての落ち着きが感じられた。

篭手切江は歌と踊りのれっすんに勤しみつつも「それらを実戦にも生かして戦う刀」の側面が強かった。今回の出陣部隊は皆、お仕事に関してスマートかつ優秀なんだな。

もちろんトラブルの火種というか厄介ごとを抱えてる刀もいて、科白劇(綺伝)では地蔵行平がそのポジションでした。ショートパンツから覗く脚が眩…じゃなくて、ガラシャとの束の間の交流が微笑ましくもあり、結末を知っている身としては同時に苦しかった。そして舞台上では特に違和感なく少年なんだけど、役者さんご自身のインタビュー写真を見ると性別という概念がわからなくなってくる。

リアルの人間が演じるとどうなんだろうな、とある意味少し不安だったのが古今伝授の大刀。元のゲームでは幽霊というより西洋のゴーストみたいな不気味さと儚さのあるキャラクターで、衣装も結構独特だしなあ、と。けど、舞台上に現れた古今さんはまるで桜のようにどこか浮世離れした美しさながら刀としての強さも兼ね備えていて、あっという間に不安は払しょくされたのでした。

ゲームで慶長熊本の特命調査をプレイした時、内容が非常に好みだったので、刀ステの次回作が慶長熊本とわかってめちゃくちゃ楽しみにしてました。しかし一番びっくりしたのは、物語の核となるであろう細川ガラシャ役を元宝塚の七海ひろきさんが演じるという事。知った時は職場の休憩スペースで声を上げそうになった。男役としての七海さんのお芝居は宙組時代から観ており、発表されたビジュアルも実に麗しいものだったので、心配はしてませんでした。

しかし。

ガラシャ様、想像以上に素晴らしかった……。

高貴で凛々しく、それでいて男っぽくもなく、時に強い情念を露わにしながらも最期までかっこ良くて、群れずに咲き誇る孤高の花のようでした。男役の経験がフルに生かされた見事な女性役で、宝塚ファンとしても嬉しかった*3。後半のビジュアルは一瞬、トート閣下もしくはオスカル?ってなったけど(笑)

他の歴史上の人物は、細川忠興黒田孝高以外は時々誰が誰だかわかんなくなりかけたけど、高山右近はわかったよ! 利休七哲だし!*4

黒田孝高はつまり黒田勘兵衛な訳ですが、ジョ伝のあの人とは別の存在のようでした。けど、科白劇はあくまで「他の本丸」の話なので、綺伝では違うのかもしれない。

 

エンディングの傘くるくるはなく、男声のオペラみたいな曲と共にスタッフロールが流れた後、出演者のお辞儀のみでした。そして、最後に刀剣男士八振りだけで舞台上に揃って一礼した時、あまりの美しさにスタオベで拍手しながら涙が出そうになった。刀ステでそんな気持ちになったのは悲伝のまんばちゃんの真剣必殺のシーン以来だよ……。

科白劇もまた刀ステの一作品であり、大満足といっていい舞台だったけれども、終わる頃には「あの本丸の慶長熊本の物語」、すなわち綺伝も観たいという気持ちが更に高まりました。このエントリーを書いてる今日は大千秋楽配信の日なのですが、ここまで誰一人欠けることなくこの日を迎えることができて本当に良かった。配信を見たらまた加筆するかもです。

 

*1:刀装だそうです。あと「だんし」繋がり。

*2:酒は「飲めない」。

*3:数年前に風共のスカーレットを見た時、女性役にしてはガサツ過ぎて頭を抱えたのが嘘のよう……

*4:♪コールミー利休七哲ー(by戦国鍋) 戦国炒飯も見てます。

【映像作品感想】魔道祖師沼にハマった二次元と舞台のオタクが陳情令を見てみた話

 

これまでの経緯はこちら(↓)。

【雑記】公演中止続きで心折れまくった舞台オタクが中華ファンタジーにドハマりした話 - 3次元別館。


ラジオドラマ*1の公開分は早々に有料部分含めて全て聴いてしまい、アニメの放送は9月から、原作小説は日本語版が出ていない*2ため、物語の先を知りたくて知りたくて震えつつ、実写ドラマ『陳情令』の配信開始日を一日千秋の思いで待ちわびてました。こないだ何となく4月初め頃のツイートを見返してみたら「最近数独ナンプレ)にハマってます」とか言ってたので、あの頃は平和だった……。
先日、配信&レンタル開始に先駆けて一話がニコ動で無料配信されたので、日付変更線をまたいだ瞬間にアクセスして視聴。ライブ配信だと信じて疑ってなかったためなんですが、よく調べたら丸一日公開してたようで、そんなに急がなくても大丈夫だった*3

 

※以下、多少記憶違いなどあるかもです&本編の内容に触れてるのでネタバレNGの人は注意

 

まず最初に浮かんだこと。
顔がいい。


予告動画や公式サイトの相関図を何度も見返して楽しみにしつつも、アニメやラジオドラマのイメージが強いので不安はありました。いくら俳優さんのルックスが良くても、髪型とかはある程度リアルの方向に寄せられてるし、自分の中で「なんか違う」ってならないだろうか。2.5次元舞台はよく見るし、二次元や小説の実写化もよほど酷くない限りそんなに抵抗ないけど、仙術バトルシーンの再現その他諸々はどうするんだろう、と。
けど、見始めたらその辺はあっさり解消して、ごく自然に実写版の彼らはこうなんだなと、『陳情令』の魏無羨と藍忘機、藍家の弟子コンビたち等々が意識の上で馴染んでいました。魏無羨の場合、俳優さんの見た目は二次元のビジュアルそっくりではないんだけど「やんちゃで時に突拍子もない言動をしつつも頭の回転が非常に早くて優秀、でもって何か複雑かつ重苦しい事情がある様子」という、序盤のキャラクターを表す概念そのものが顕現してた。くるくると変わる表情、特に笑顔が実に良い(かわいい)。別の作品だと、実写映画『帝一の國』の大鷹弾は漫画の絵柄にはあまり似てないにもかかわらず、爽やかパーフェクトイケメンぶりがまさに弾そのものだったように……という例えで伝わるだろうか。ラスト近くに屋根の上からふわっと華麗に現れた藍忘機は玲瓏という形容が実にしっくりとはまり、こちらもまた概念そのものが来てしまった感がありました。ほとんど言葉を発していなくても、醸し出す空気が既に堅物クール美人。顔がいい、というのには単純にイケメンというだけではなく(もちろんそれもある。とてもある。造作が整い過ぎて意味わかんない)、そういう意味合いも含んでいます。


冒頭の5分前後を除き、一話の大筋は他媒体とほぼ同じで、多少シーンが追加されてわかりやすくなってました。莫子淵が招陰旗を盗もうとするところとか、屋根の上からふわりと現れた藍忘機が、登場後に琴の音で莫家の人たちを鎮めるところとか。
大きく違ったのは、魏無羨(莫玄羽)の腕の傷が三つではなく、四つになってること。うっかりネタバレを見てしまったので、残り一つが誰を指しているのかだけは把握できたんですが、どうしてそうなったのかは今後を楽しみにするとしよう。他にも、莫玄羽が地雷メイク*4じゃなかったり、献舎の術が捨身呪になってたりと細かい違いはちょいちょいあった。


それにしても、だ。
最初からいきなりめちゃくちゃ匂わせまくってませんか。
蘇ったその日の夜、ひとり笛で切なげな旋律を奏でながら「藍湛」とかつての友の姿を思い浮かべる魏無羨って、自分の記憶が確かならそんな描写アニメにもラジオドラマにもなかったよね? そしてまだ姿すら見てないのに「魏嬰、お前か?」って早くも察しちゃってる藍忘機とか、さあ……ドラマ版はBL要素をなくしてるって聞いてたからもっとあっさりしてるかと思いきやスタートからありがとうございます!! エンディングテーマのタイトルに至ってはド直球でカップリング名だし!!


アクションシーンはワイヤーアクション?で横に縦に飛びまくっており、なんかめっちゃ飛ぶなあ……というのが初見の感想です。1話はホラー映画っぽかった(特段グロくはない)。天女像や水の化物との戦い等々はどう描かれるのか楽しみ。


この日は本国での放映開始一周年記念という事で、本国のファンの方が日本を含む各国で記念映像を流す、という報を受けて、午後になってから西武新宿駅近くのヤマダ電機LABIの街頭ビジョン前まで行ってきました。海の向こうのファン、スケールが桁違い過ぎる(謝謝)。10分ちょっと待機して15秒と短かめではありました*5が、大画面で華麗に戦う二人を眺められて感無量でした。映った瞬間、近くにいた同じ目的らしき女子たちが歓声を上げてて、心で「同士……!」と呟いたりして。あれらの場面はもうちょっと先の展開で出てくるのかな?

 

情報収集目的でTwitterを検索→ちょいちょい流れてくる仲良さげな忘羨@陳情令の画像にいちいち動揺しまくってる現状、2話以降を視聴して正気を保っていられるかどうか、全く自信がありませんが、明日から楽天TVで配信が始まるので、週末はしっかり家にこもって視聴しようかと。

 

*1:祝CD化! 第一期後半と第二期以降もお待ちしております……

*2:平安時代のやんごとなき姫君だったら多分薬師如来像彫らせて拝んでた

*3:まあ知ってても同じことしてたかも知れない

*4:アニメではそんな感じだった

*5:30分に1回くらいだったようなのでタイミングが良かった模様

【雑記】公演中止続きで心折れまくった舞台オタクが中華ファンタジーにドハマりした話

 

注:この記事をアップした時点で実写ドラマ「陳情令」は未見なので、原作である「魔道祖師」のメディアミックスの話題がほとんどです。このため、接した媒体に基づいてそれぞれ発言してます。

 

《ブログ主について》
・月平均で2〜3回くらい観劇する比較的ゆるめの舞台オタク(宝塚、2.5次元中心)

・海外コンテンツはハリウッド映画など話題作をたまに見る程度

・商業BL好き


無料配信で盛り上がったり、最近は少しずつ動きも出てきているけれど、未だ元どおりとはいかない舞台界隈。これまであまり触れて来なかった刀ミュの無料配信をほぼ毎晩見続け、村正と蜻蛉切、初代二代目堀川国広の歌声に聞き惚れ、鶴丸の人、これだけ歌えて歌をちゃんと習ったことがないとか意味わからん*1のですけど……とあっけにとられ、髭切や巴形薙刀の華麗なダンスに見惚れ、あおさく組のフォーメーションの完璧さに拍手したり、初期から参加している人たちの著しい成長を目の当たりにして感慨にふけったり、らぶふぇす楽しい〜!と心でペンラを振ったり、刀ステは有志の同時配信も、その後の無料配信もほぼ毎晩参加して、手持ちの円盤もしくは配信映像見ながらタグ付きで実況呟きまくったり、OG含む宝塚の方々の動画にガチ泣きしたりはしてたけど、やはり劇場に行けないのは辛い……。


「物語をおくれ……」と本やマンガ、ドラマ等々をそこそこ楽しみつつも新規にハマるまでは至らなかった5月の下旬、リアル知人経由とSNSでほぼ同時期に、ある作品のことを知った。


要約すると
・「陳情令」という中国発のドラマがあり、日本でもWOWOWで放映されている
・原作は「魔道祖師」というタイトルのBL小説で、ドラマ版はBL要素を抜いてブロマンスとして制作されてるらしい
・原作と同タイトルのアニメ版(こちらもBL抜き)もYouTubeで日本語字幕付きで見られる(※2020年6月現在、日本からは視聴できなくなってる模様
・主役二人はタイプの異なるイケメン
・ヒラヒラした衣装で魔物的なものと戦うお話らしい


ほう……。


元々中華な衣装や世界観が好きな事もあり、実写ドラマ版のサイトを見てみると、確かになかなか見目麗しい二人組。PVもとっても興味をそそられる。しかし自分はWOWOW未加入なので、オンラインでの配信開始*2を待つとしてアニメの方見るかー、と検索してみた。

 

<以下、多少内容に触れているためネタバレが気になる方はご注意>


ん……? 「魔道祖師」の日本語版のラジオドラマがある? しかもベテランを含む有名声優が複数キャスティングされており、かなり力入ってる様子。どっちにするか迷った末、まずはネット上で無料公開されてるラジオドラマ1話を聴いてみた。
独特の用語や固有名詞がたくさん出てきて結構複雑なんだけど、字幕をつけてくれているし、脚本がしっかりしてて音だけでもわかりやすい。
そして主役の子、魏無羨が非常に良い。やんちゃ系で割と騒がしいが頭の回転は早く実力もあるようで、ロング黒髪ポニテのかなりの美人。しかも13年前に何かやらかしたらしく、邪悪な存在として恐れられてる模様……この子が受けってまじですか(嬉)
そして、ニコ動みたいにコメントが弾幕で表示されるんですが、言語が実に多国籍。日本語の他に簡体字繁体字、ハングル、英語、他のアルファベット圏のそれらから見覚えのない文字(タイ語?)まで、いろんな言葉で愛あふれるコメント*3が次々と流れていく。国際的に人気のコンテンツ、凄い。


アニメではエピソードが多少端折られてるらしいのと、先にビジュアルのイメージを脳内で確かにしておきたかったのもあって、ラジオドラマ1話の後は、当時YouTubeで無料公開されてたアニメを見てみた。細かい説明が少なくて、時々首をかしげる部分はあるものの、なんと言っても映像があるのでさほど問題はなかったです(ラジオドラマを少し聴いてたのも良かったかも)。巨大な石像が動き出したり、魔法陣みたいなのが発動したり、あーこういうの楽しい! 続々出てくる主要人物も、超クール白装束琴使いで魏無羨と浅からぬ因縁があるっぽい藍忘機(超絶美人)とか、白装束のルーキーコンビ(美少年ズ)とか、ツンツンした生意気少年(かわいい)とか、鞭遣いの怖そうな兄貴(美丈夫)とか綺麗なおにいさんと美少年しかいないのかってくらい(さいこう)。で、3話目から過去編に突入して、少年時代の魏無羨、藍忘機をメインに20年前の彼らの様子が描かれるんですが……。


何これ。
鴨がネギと鍋背負ってポン酢とゴマだれ差し出してきた??


ツン要素多めクール優等生美人(キレた時の瞬間風圧高め&着やせするタイプ)とやんちゃ系天才美人(一部で異端扱いされて疎まれてる)の組み合わせって、さあ……しかもなんか先行きに暗雲立ち込めてそうだし(わくわく)(酷い)
7話まで見終わった(魏無羨が藍忘機のハチマキみたいな布をうっかり取っちゃって、ブチ切れられたとこ)時点で、気づいたら既に沼に半分以上浸かっていた……。今晩は刀ステの配信もあるし、週明けは仕事あるし、何より新規供給の過剰摂取で脳がキャパオーバーになりつつあったので続きはまた後日……にするつもりだったのだが。


6月に入り、最初に勧めてくれた知人とオンラインで連絡を取る機会があったので「アニメの方見てハマりつつありまして///」と報告したら「今アニメ見れなくなってますよね」と。


はい??


本当だ、この地域では再生できませんって出る。なんてこった。いや、もしかすると近々別の形で展開されるフラグだったりする*4? ならば、ギリギリで7話まで視聴できた事に感謝しつつ続きを見られる日を待つとして*5、ラジオドラマの続きを聴こう、と、何とか気持ちを切り替えてアプリをダウンロード→さくっと課金しつつ2〜5話*6まで聴いてみた。


……。
………。


あの。
更に深みに引きずり込まれたんですが。
たすけて(意味不明)


やはりアニメはかなり端折られていたようで、よくわかんなかった部分がかなりの割合で判明した。そういう経緯でロバ(りんごちゃん)と共に山に向かってたのね、等々。そして魏無羨君、ラジオドラマ版ビジュアルの印象の百倍はチャラい。騒がしい。アニメを先に見てると特に違和感はないんだけど、ラジオドラマの美麗ビジュアルだけなら鶴丸国永といい勝負の儚げ色っぽい美人詐欺。これは禁言術で黙らせたくもなるわ。かく言う藍忘機の方も規則遵守のもんのすごい堅物で、不意打ちでエロ本見せてからかいたくもなるよな、と頷きまくる。聶さん家の子が悪ガキでかわいい。あとさあ、藍家は顔が相当良くないと弟子入りできないらしいので、三千の掟の中にはきっと美容関係のもあるよね。肌の手入れを怠るなとかニキビ作るなとか、髪はツヤが出るまで梳かせ、とか(妄想が止まらない)。

ラジオドラマはBL要素ありのため、アニメにはなかったシーンにも衝撃を受けまくる。藍忘機の入浴シーンを意図せず覗いてしまい、13年の間に何かあったらしいことが判明するとか、夜中に寝込みを襲ったら返り討ちに遭い、術をかけられてくっついたまま就寝することに……とか、禍々しい何かを制御するために笛と琴で合奏とかさあ!(机をバンバン叩きまくる)
複数のファンアートで主役二人がウサ耳つけてたり擬人化ならぬ擬兎化してる理由も把握しました、可愛い過ぎか。で、アニメで見た過去の回想と、ラジオドラマで提示された現在のあれこれを思い返しながら美しくも哀切漂うテーマ曲を聴いてると、あれ、13年前にかなり二人にとって壮絶かつ哀しいことがあったり、する……?


(更なる萌えの過剰摂取により2〜4話まで聴いた日はガチで睡眠不足になりました)


ラジオドラマの配信は6話、すなわち一期の前半までで、続きは現在制作中と。待ちますとも。このご時世だからいろいろ滞るのは仕方ないし。けど、できる限り早く聴きたい、です……。ラジオドラマ公式Twitterでは用語解説や、時々ファンアートのリツイートをしてくれたりもしてなかなか手厚い。それにしてもpixivのおすすめに上がってくるイラストの数々よ、どんな経緯でこの二人こんなに仲良さそうになったんだろう、いろいろ乗り越えて仲良くなったとこ見たい(聴きたい)。今ならわかる、菅原孝標女の気持ち……。

 

思わぬ方向から突然矢が飛んできて未だ動揺しておりますが、新たな出会いに感謝しつつ、今楽しめるものを楽しみながら動向を見守りたいと思います。そして、願わくば原作小説の日本語訳版が出ますように……。

 

(追記)

こちらの記事をアップした数日後、アニメの日本語字幕版・吹替版の制作が発表されました。やったー!! 字幕版はWOWOWで9月から放送するという事で、真剣に加入検討しなければ……。

 

*1:表現力はまだ伸びしろがありそうだと思ったけど末恐ろしい逸材や……

*2:7月から。嬉しい!

*3:正確な意味は掴めなくてもハートとか、人物名+「好」とかならそうだよね

*4:知人もその可能性があるんでは、と言ってた

*5:さらっと書いてるけど相当凹みました

*6:1〜3話は無料で4話以降は有料