- ネタバレ防止のため、観劇予定の方は回避推奨
ポスタービジュアルがいつにもまして美麗なのと、元ネタのオペラ*1が好きなので、ビジュアルが公開された時から気になっていました。
少年社中の作品は「アマテラス」「ピカレスク◆セブン」を劇場で観ており、エンタテインメント性の強い作品を上演する劇団、という認識です。今回も、その面では期待を裏切ることなく、途中のあっと驚く展開も含め、最後まで飽きることなく鑑賞できました。演出面では映像が要所要所で効果的に使用されており、ダンスパートも格好良かった。衣装も、「劇団」のメンバーは中華テイストのデザインに南国の鳥を思わせる鮮やかな色合いが美しく、支配者側の白の衣装と対を成しているようで、こちらも見応えあり。
主人公の青年、カラス*2はいい意味での暑苦しさがありました。熱血青年なんだけどカラッとした爽やかさも備えていて、ダンスなどでの身体の動きが軽やかだったのも鳥っぽくて良かったです。
ヒロインのトゥーランドット(ケツァール)は、初めてお目にかかった役者さん。幕開きから3日目ということもあったのか、膨大な量の台詞の滑舌が時々不安定だったのは否めないのですが、声はきれいに出ていたので、日が進むにつれて改善されてくるんじゃないかな、とも。そして、ダンスには惹かれるものがありました。激しく主張が強い訳ではないのに、振りの一つ一つが丁寧で、大勢の中で自然に目がいってしまう。
謎の男は……何を書いてもネタバレになるのでこれだけ言わせて。とても素敵でございました。
少年社中の方々も、他のゲストの方々も、熱のこもった演技とパワフルなダンス&アクションで存分に魅せてくれた。
ただ、お話の中でどうしても引っかかってしまった点がいくつかありました。
(以下、核心はぼかしつつも大きめのネタバレを含みます)
冒頭に元ネタのオペラが好き、と書きましたが、音楽と、おとぎ話のような世界観が好きなのは本当です。ただストーリーそのものは「まー昔の作品だからしょうがないけどさ……」と、いろんな方面から突っ込みどころ満載だったりもする。確かに、トゥーランドットの物語が作品世界に重ね合わせられていて、三つの謎の部分も効果的に劇中の展開に生きていたりいたりする。それ自体は上手いなあ、と素直に思えるんだけど。
まず、あのふたり(not主役コンビ)が何でラストであんな風になったのかがよくわからなくて……。私の思い違いでなければ、「意識はしているけれどどうしても譲れない部分がある」みたいな描写すらなかった。 それなのにあのラストは唐突すぎて、あなたたちいつの間に??ってハテナマークが頭を飛び交ってた。あまりにふたりの個人的なやりとりや関係性の提示が少なすぎて、劇中劇でのカラフとトゥーランドットにストレートに重ねるには、ちょっと無理がある気がしました。人として尊敬することと、恋愛対象として好き、ということはイコールじゃないからね、決して。それから「お父様」といい「二人の◯◯」といい、「無慈悲で残酷で愚かな彼女」の過ちを正し、教え導く側のリーダー的存在が皆男性という点。そういう前時代的な価値観をそのまま踏襲しちゃうんだなー……ともちらっと感じた*3。ここの作品は男性も女性も強くてかっこいい(同時に弱く愚かしくもある)、というイメージがあったんだけど、今回は女性陣が誰一人としてステレオタイプの域を出ていなかった*4のが残念だった。
あと、クライマックスの劇団の仲間たちの場面。あれ、正直ちょっと気持ち悪かったです。ひとりが賛成したら次々「そうだね」「そうだよ!」とあったかい雰囲気でまとまっていって、トゥーランドット(ケツァール)が最初に仲間に加わる時に否定的だったメンバーなんかも簡単にそっちに回っちゃって、感動するより先に同調圧力めいたものが感じられてきっついなー……と。せめて、嫌だ!と一度逃げてから「どうせ◯◯させられるんなら、せめて一矢報いてやる!」って言いながら結局戻ってくる、みたいなメンバーがひとりくらいいても良かったんじゃないかな……。
個性豊かな劇団メンバーたちが繰り広げるやりとりは楽しかったし、泣きそうになってしまった場面もありました。実際の稽古場風景を彷彿とさせる場面も随所にあり、特に演劇の世界に身を置いている人なら、響く台詞がたくさんあるかも知れない。稽古のシーンで、かなり具体的な固有名詞を挙げながらダメ出しをするところはめっちゃ笑った。作中の人間とAI・ロボットの対比を通して投げかけられた、現代人への問題提起(というように私は受け取りました)も良かったです。だから尚更上記の部分が引っかかってしまうんだよな……。
最初に書いたように、全体的には楽しむことができました。ただ、ストーリー面でどうしても首を傾げざるを得ない部分もあった、というのが本音だったりもします。